必然は偶然、偶然は必然 第七話

・・・ウッドロウは父であるイザークに厳正なれど、その中に確かな暖かみを覚えていた。だがそのイザークの判断も少し違う人から見れば自分達の事を考えていないと見る人もいるのだと、ウッドロウは先の事件から理解していた。

・・・何もイザークが全て間違っていたとは言うつもりはウッドロウにはない。事実イザークの判断を至上と仰いでいたダーゼンのような家臣が何人もいたことから理解している。だからこそ、その優しさを自身の狭い視野にしか映らない者達のみに分け与えるような差別を起こしてはいけないのだとウッドロウは考えたのだ。誰にも等しく、至上の思いやりを持った政治を行い出来る限りの不満を出さないようにしようと。

・・・そんな考えを持ったウッドロウから見たら、リグレットはかつて預言により亡くした弟への餞(はなむけ)の為に行動をしてはいるがそれを弟の真意であると思い込んでいる節があると見ていた。それ故ヴァンの預言を滅ぼすという甘言に乗ったのだと。

・・・だからウッドロウは気付かせ引き返させたかったのだ。その愛は狭窄な視野の自己満足の逃避であると。ただ無論直接的にリグレットの弟の事を言えば一層不審がるだろうと考え、間接的に気付かせる程度に表現は抑えてはいるが。



(・・・家族・・・マルセル・・・あいつは甘かったな、常に私を気を使いよく笑っていた・・・いや違う、あいつは優しかったんだ・・・)
だからこそその配慮の声は成功と言えた。リグレットの心中に浮かぶのは在りし日の弟との思い出の日々・・・その日々を久しぶりに思い返し、リグレットの中に暖かい想いが去来していく。
(・・・だがマルセルは預言に詠まれた通りに死んでしまった・・・だから私は閣下に仕えてこの世界を壊すことにした・・・だが、本当にそれでいいのか?私・・・いや、マルセルは・・・?)
しかしすぐに弟の死を知った時の事を思い出し気持ちが冷たくなるリグレットだったが、ここで今までの彼女にない変化がその心中に訪れる。それは自身の大義とした物への新たな視点からの思索である。
(・・・システムだけでは人は救えない・・・確かにそれはそうだ。預言を実行するだけのシステムなどに幸せなど存在しない。そこには犠牲を抑制しようなどという声はない・・・だがそれでもマルセルは神託の盾として平和の為に殉じた、そこには預言の為という言葉はあるが真に平和を願ったマルセルの心は確かにあった・・・・・・確かに預言は許せは出来ない、出来ないがマルセルのその心も許せないなどとは私には言えない・・・!)
「どうかしたのかね?随分と考え込んでいるようだが・・・?」
「っ!?・・・いや、気にしないでくれ・・・」
そこから更に深く自身の考えをまとめようとした時に不意にウッドロウから顔を覗き込むよう声をかけられ、リグレットは必死に驚きと声を表面に出さないよう押し殺し力なく首を横に振る。
「・・・いや待て、1つ質問をさせてくれ」
「なんだい?」
だがリグレットはそこで何かを思い止まりウッドロウに顔を向け、質問の要請を願い出る。
「・・・前のタルタロスの時から考えていたのだが、お前は本当に傭兵なのか・・・?そんじょそこらにいるような雑魚とお前は違う。腕も知識もあらゆる経験においてな。それに加え貴族のような空気すら漂っているように思える・・・何故お前のような奴が傭兵などと・・・」
「・・・ふむ」



・・・自身に意味深に問いかけるよう言葉を残した男は何もかもが普通とはかけ離れた物があると、リグレットはそう感じていた。それからその言葉の意味を探しつつもウッドロウの事も少なからず考えていたリグレットにとって今回の接触もあり、この事は聞かずにはいられない問題だった。



そのリグレットの命令ではなく教えてくれとの懇願に近い声に、ウッドロウはまた柔らかな笑みを浮かべる。
「それを知りたい、というのであればアクゼリュスに着く前にもう一度私の所に来るといい。その時は君の考えをまとめてからね」
「っ・・・今すぐ答えんというのか。それもわざわざもう一度来いなどと・・・」
「嫌なら構わないが、ただ今の君は多少弱っているように見受けられる。そのような状態で私は君に話をしたくない。だから時間を取って落ち着いてからと言っているんだ。これは譲れないよ」
「・・・わかった、それでいい」
その顔のまま老成したウッドロウののらりくらりとした話を受け、のれんに腕押しだなと言わんばかりにリグレットは激しく攻め立てる言葉をやめその条件を了承する。実際色々ごちゃごちゃしているのは事実、だからそれをまとめるのに精々時間を使わせてもらうと思いながら。









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