必然は偶然、偶然は必然 第七話

・・・しかしそんな二人の気持ちを裏切るよう、ルークはアッシュの元へとつかつか歩み寄る。
「さて、汚名返上しに来たって言ったけどこの現状でよくもまぁ偉そうな事を言えたもんだな」
「っ・・・黙りやがれ、屑が!」
そこから見下す形でルークが喋るとアッシュはまた沸点がキレた様子で勢いよく立ち上がろうとする。
「ほいっ」
‘ガスッ’
「ガハッ!」
しかしルークはすぐさま立ち上がろうとする体勢の悪さを利用し胸に前蹴りを入れると、アッシュはまた抵抗の余地なく砂の上に仰向けに倒れる。
「・・・もうちょいお前が賢かったら、こんな風にしなくても良かったんだけどなー」
‘ザブッ!’
「・・・っ!?」
更にルークはローレライの鍵を持っている事をカムフラージュするために買った剣を感情のない声と共にアッシュの首の横に突き刺し、底知れないルークの感情の闇に触れたアッシュの表情が確かに驚愕に変わる。



・・・ルークは何もアッシュらを信用しないまま音譜帯に行ったのではない。元々は信用して後を任せた。だが自分達の気持ちを裏切るどころか、世界全体の流れの声を受け入れる事すらなく、裏切り続ける形で世界を混乱させてきた。

その事から今更アッシュ達を見損なう事などないとそう思っていたルークだったが、改めてアッシュが愚かしく自身への見苦しい感情を見せた事に今までの鬱積とした感情が静かに爆発したのだ。



「一々俺だけじゃなく関係無い所にまで意味なく突っ掛かってきやがって・・・んなテメェの無駄な行動でどれだけの損害が出たと思ってやがる・・・」
「な、何を言ってやがる・・・!?」
・・・そんな鬱積の爆発にアッシュはわかりやすく動揺しながら返す・・・が、ルークはそれを言いはしない。未来の事を話しても意味はないし、カイツール軍港の事を話しても理解はしない上にルークに八つ当たり同然に擦り付ける姿は容易に目に浮かぶから。
「んなことはどうでもいいんだよ・・・なぁ、そろそろお前殺してもいいか?もういいだろ、いい加減お前に関わるのも飽き飽きしてきてんだよ俺」
「っ・・・!」
そんな光景が浮かぶし改心の余地もないからこそルークはもう心のままに殺してもいいかと呟くと、アッシュは何も答えれず冷や汗混じりに沈黙する。アッシュからすれば反論したいのだろうが、今のルークは危険だとくらいにはわかっているから沈黙しているのだろう。不用意に「やれるものならやってみやがれ!」なんて言ったら、すぐに容赦無しに剣が首を跳ね落とす光景が浮かぶだけに。
「待ってくれ!」
するとその様子を流したままにしては危険だと感じたのか、リグレットが焦った様子で声を荒げる。普段の彼女ならここで譜銃をルークに向けていたところだろうが、そこはウッドロウ達がアッシュも含めリグレットを注視しているので無理だと判断したのだろう。
「・・・なんだよ」
「頼む、ここは素直に引く!だからアッシュを解放してくれ!」
「は?随分と都合のいい言葉だな。散々人に迷惑をかけておいて自分らが不利になったら自分の言うことを聞けなんて・・・んなこと言ってお前らを信用するから帰してやるなんて、普通言うと思うか?」
「そ、それは・・・確かに、そうだが・・・」
そんなリグレットにジト目で正確に反論するルークに、リグレットはいつもの気丈さは成りを潜めて上手い言い訳を探そうとする。散々ルークを襲ったアッシュを解放するにはそうするだけの条件を満たせる取引材料がないことに、リグレットはそれをどうするのかを考えているのだろう。
「・・・ならばこちらから出す条件を飲めば、ルーク君の判断次第だがアッシュを解放しよう」
「・・・何?」
「ルーク君、いいかい?」
「ん・・・その条件ってなんだ?」
するとそこにリグレットに取っては意外な助け船、ウッドロウが入ってくる。その声にリグレットは眉を寄せ、ルークは感情を戻したようまずはとその中身を問う。



「いやなに、アッシュを解放する代わりに君に人質になってもらう。そしてアッシュには伝言役を務めてもらう。リグレットを解放したければ今すぐ導師を襲っている神託の盾の手を止めて引かせろという命の伝言役をね」








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