必然は偶然、偶然は必然 第七話

(・・・図らずもリグレットが来た、か・・・)
その姿を確認したイクティノスは運命が巡り合わせたのか、と思いたくなる。ただ声には出してはいないので、そんな内心は見抜かれてはいないが。
「フン、屑が・・・こうやってわざわざ導師達から離れるとは、気でも狂いやがったか!?」
「・・・アホくせ」
しかしアッシュはリグレットを全く意に介した様子も見せずすかさず罵りを向けるが、ルークは冷めた目で誘われた事にも気付けない馬鹿に口内に留める程度の声量で面倒という声を上げる。
「だったらその狂人にわざわざ何しに来たってんだ?」
「決まってんだろうが!テメェにはタルタロスで恥をかかされたからな・・・それを返しに来たんだよ、ノシをつけてな!」
そこからだるそうに手を広げ自分の所に来た訳を問うルークに、アッシュは剣を抜きながら怒りを声に乗せつつルークに斬りかかってくる。
「ディムロス」
「魔神炎!」
‘ゴォッ!’
「っ!?がぁっ!」
その光景にルークは剣を抜きもせずディムロスの名を呼ぶと、心得ていたと言わんばかりにディムロスは魔神剣を自身の分身であるソーディアンが使えるようになってアレンジした魔神炎を放ち、ルークのみに目をいかせていたアッシュはモロに魔神炎を受けてその身を焦がしながら後ろに倒れ込む。
「テ、テメェ・・・!」
「なんだよ、一々俺がお前の相手をしなけりゃいけない道理なんてねーぞ。つーかそもそも俺だけに目を向けて他に気をやらないなんて、兵士失格じゃねぇのか?戦場ってそういう場所だろうに、何学んで来たんだよお前」
「・・・っ・・・!」
そこからアッシュは上体を起こしルークを罵倒しようとするが、中身を正確に言い当て反対に甘いと見下されながら返されアッシュは悔しそうに歯噛みする。
「さてと・・・一気に片付けるか、夜が明けたら暑さで体力奪われちまうからな。時間はかけらんねぇ」
「くっ・・・何をやってやがる、リグレット!早くお前らも加わりやが「ディバインセイバー!」」
「「「「うわぁぁぁっ!」」」」
「「・・・っ!?」」
そんなアッシュを殺さんばかりの言葉を投げてくるルークにアッシュは恥も外聞もなくリグレット達に援護をさせようとするが、それすらも見越していたかのようなハロルドが神託の盾を全員巻き込む形で詠唱を終えきったディバインセイバーを放ち神託の盾を一掃すると、その光景に二人は唖然とする。
「何も言わなかったのによくディバインセイバーを詠唱してたね、ハロルド」
「状況が不利になったら味方を呼んで自分のペースを作ろうとする・・・軍師だった兄貴と違って私は軍略なんかに興味はないけど、それくらいは素人にも思いつく事だから早目に潰しておいた方が楽になると思ってね・・・もしかしてなんかまずかった?」
「いいや、そんなことはないよ」
その光景を生み出したハロルドにウッドロウが話しかけ、ハロルドは戦術になど興味ないなどと言いつつも確かな戦果を上げたことがまずかったのかと普通そうに落ち度を問うが、ウッドロウは笑顔で首を横に振る。



・・・ハロルドも兄のようにやろうと思えば出来た可能性は十二分にあり得た。しかしそれをやらなかった理由は兄であるカーレルが軍師を務めたからであり、科学の研究の方が自分の好奇心をくすぐった事にある。それにハロルドも兵法書を全く読んだことがないわけではない、暇潰しで全て読破してその中身を覚えきるなど当たり前に出来た。そしてその兵法書に沿って考えればアッシュかリグレットの取るだろう行動の予測を取ることなど容易と言えた。



・・・そんな二人の会話に、アッシュとリグレットの二人は既に自身らの不利を理解していた。このまま行ってはタルタロスでの時の二の舞になるだけ、そうなれば今度こそ自分達は・・・

・・・内心を悟らせる訳にはいかない二人は表情にこそ出してはいないが、どうするべきかを決めあぐねていた。












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