時代と焔の守り手は龍の剣 第七話

だが、そうならなかったことを比古清十郎は逆に感謝した。



(・・・なんだ、あいつのあの甘言の羅列は・・・)
気を失ったルークが気付きヴァンと会話をする場面を見ていた比古清十郎。だがそこから出てくる言葉は全てがルークにとっての危険であり、ヴァンに対する信頼を刷り込ませるような言葉ばかり。
(確かに事実は事実としか言えん内容ではある・・・が、それを利用してまでルークの信頼を得ようとするとは・・・コイツは間違いなく確信しているな、ルークは自身にしかなびかんという事を・・・)
それは裏を返せばルークの中でヴァン以外の者に対しての不満ないしそれに近い物があると悟っているという事、それらを持ち出して来るという事に比古清十郎は察知する。
(だからこそ今の時点でキムラスカでも親でもなく自分を信じさせるように言ったのだろうな、本格的にアッシュの身代わりにルークを使うために失敗しないよう・・・!)
ヴァンからしてルークを作った意味、それを為す時が来たということを。そう考え、比古清十郎の眉間に深いシワが刻まれる。



‘ボォ~’
・・・と、そんな風に比古清十郎が二人の様子を観察していると船の汽笛がケセドニアに着くことを知らせてきた。その音にヴァンは師としての顔を作りその場からルークを残し退散する。その場に残ったのは英雄になれと言われ、何やら決心めいた表情になっているルークのみ。
(・・・あれでは余程上手くいかねば説得などまず出来んな・・・下手に言葉で説き伏せようとすれば、反発どころかヴァンに俺の事を言い出しかねんな。話を聞いていた事を)
そんなルークを見て比古清十郎は生半可な言葉では頑として自身の言葉など受け入れてはくれないだろうと考える。
(・・・もしもの場合は奴を斬る、それで済ませるしかないか・・・)
そして最終的に出た結論は最悪の結末になる前に最低の解決法を持って終わらせる事、しかしそれは少なからずセカンを悲しませる事にも繋がる。その事に若干だが心苦しさを感じつつも天秤に自身の使命とどちらが重いかを乗せて比べれば、使命が重いのは見るまでもないこと。
汚名を浴びる覚悟などとうにしている比古清十郎はただゆっくりと瞼を閉じ、船がケセドニアに着くのを待つ・・・









・・・そしてケセドニアに船が着き、一同は港から街の中へと足を運んでいくがふとヴァンが立ち止まる。
「私はここで失礼する・・・アリエッタの件で色々報告をしなければならないのでな、少々時間がかかるから先に行ってもらいたい」
「・・・ふん」
そして言い出したのはここでのしばしの別れだが、アリエッタと出され比古清十郎は不機嫌そうに静かに鼻を鳴らして視線を反らす。
「・・・ではまたバチカルでな」
ルークが名残惜しそうにヴァンと別れたくなそうにしているとヴァンは一人別の方向に別れを告げてから歩いていく。
「・・・随分と不機嫌そうですね、船の上で何か不快な事でもありましたか?」
「・・・何?」
そんなヴァンの後ろ姿に注目が集まる中でジェイドは比古清十郎に近付き小声で話しかける。
「私としては大分興味深い事が聞けましたのでそれなりに有意義な時間になりましたよ。物語になるやも知れない英雄のお話という興味深いお話を聞けましたのでね」
「っ・・・そうか」
そこから回りの目を気にして控えられた表現に変えられこそしたものの、ジェイドから出てきたのは暗に自分も船の上での話は聞いていたという声。その中身を受け取り比古清十郎は一つ頷きを入れる。
「ならば後でその話について話し合うか、また船に乗らねばならんのだから時間は十分にあるだろう」
「えぇ、そうしましょうか」
更にその話を詳しくしたいと二人は控えた表現でそうすると約束すると、普通の様子を作り先を歩き出すルーク達の後ろを付いていく・・・







3/12ページ
スキ