時代と焔の守り手は龍の剣 第一話

・・・セカンと会ってからしばらく、比古清十郎は記憶のないセカンの為に人に気遣う気持ちを伴った慣れない手つきで半ば介護のようにセカンを面倒を見ていた。その時は記憶喪失の為にここまで何もやれないものなのかと比古清十郎は思っていた・・・が、その気持ちを比古清十郎は一月もするころには捨て去っていた。

・・・ただ何故そうするに到ったのか?・・・それはあまりの違和感に、気付いてしまったからだ。









「フンフ、フフン♪」
「・・・随分と機嫌が良さそうだな」
今時あまり見られない特有の木造の家の中、鼻歌を歌いながら茶の用意をするセカンに比古清十郎は陶器を隅に置くと他人にはわからないくらいに声を機嫌悪く落とす。
「久し振りに人が来るんですよ?ちょっと外のお話を聞いてみたいじゃないですか、ここはあまり人が来ないし」
「・・・話をするのは構わんが、手短に済ませろ。商人が帰ったならすぐさま稽古をまたつけてやる」
「え!?稽古はさっきので終わりじゃなかったんですか!?」
「誰が終わりと言った。それと下手に時間を取ったならこの外套を取って相手をしてやる、出血サービスで手加減無しの俺でな」
「えっ!!?・・・わかりました、お茶を出したら下がってます・・・」
人が滅多に来ないこの地に例え商売とはいえ人が来ることはないため、セカンは人との交流を楽しみにしていたのだが、比古清十郎は本気物の流血沙汰に発展しそうな声で外套を外そうとし、セカンは本気で引き攣り渋々といったように下がる。









・・・セカンの介護のように世話をしていたといったが、介護というからには避けられない介護する側が一緒についてやらねばならない場面が必然的に存在する。そんななかで比古清十郎が一番驚いた場面が・・・風呂だった。

始め、比古清十郎はガキ一人風呂に入れるくらいならなんとでもなると思いセカンの身に纏っていたボロを乱雑に脱がした・・・が、その瞬間比古清十郎は違和感を感じ、事実に気付いた瞬間らしくもなく苦い顔をセカンに見せてしまった。何故ならそこにあったのは、自分と同じ男だと思っていたのがハッキリと女だと分かる姿だったから。

・・・元々子供にしてはやけに整った顔立ちで中性的であると比古清十郎は薄汚れた格好でも思っていたのだが、それでも着替えさせて風呂に入れると言っても一切の拒否を見せなかった事から男であると信じていた。故にその見立てが外れていた事が比古清十郎に少なからず衝撃を与えた。

だがそれ以上に比古清十郎を驚かせたのは、セカンの無垢な首を傾げた姿だった。「どうしたんですか、師匠?」「いや、お前・・・女だったのか?」・・・そんならしくもない会話を繰り広げた比古清十郎だったが、会話を続ける内にふと比古清十郎は感じていた。‘コイツは記憶喪失なんかではなく、喋れる赤ん坊のようなものでは’と。

・・・そう思ったのは比古清十郎の見立てで、十程にもなる子供が例え記憶喪失でも恥じらいが失われるのかと考えたからだ。そこから比古清十郎は元々セカンが捨てられた経緯が気になっていたというのもあり、記憶喪失の事とセカンを捨てた者達の事を独自に調べていった。

・・・結果として比古清十郎は自身の推測も交えてだがどちらに対しても疑問の答えを出し、セカンという存在がただのかわいそうな子供というだけで済ませられる物ではないという目で見るようになった。



・・・ただそういった目線で見なくなったのはいいが、七年も暮らしている内に艶やかに育っていったセカンに男が近付くと途端に面白くなさそうな表情を比古清十郎は自然とするようになっていった。しかしそのことはセカンは気付いていないし、そんな気持ちを向けられる男達はセカンへの色目も使えず戦々恐々としている。下手を打てば色目を使ってすらいない男にまでそんな表情をするだけに、始末に負えなくなっているのだ。

・・・こんなことを本人に言えば得意技の九頭龍閃という技をぶち込まれかねないが、この七年でセカンは比古清十郎を親バカへと変えてもいた。








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