時代と焔の守り手は龍の剣 第一話

・・・それから六年経った。セカンはカクノシンに激しい剣の師事を受けながら、暮らしていた。



「まぁ、俺に敵わんのはいいだろう。が、この調子では俺から比古清十郎の名をもらうにはまだ力不足・・・これからどれだけ時間をかけて俺を倒してくれるんだ?」
「むっ・・・今の私じゃまだ師匠には敵いませんけど、そのうち追いついて見せますよ!」
「ふっ・・・この外套を外してもない俺に勝てんのに、そんな安請け合いをしてもいいのか?」
「うっ・・・それを言われると痛い・・・」
セカンに構わずキメまくるカクノシンは『比古清十郎』の名を出し意地悪い笑みを見せ、セカンは少しムキになって返すが、更に身につけているマントの事を口にされ途端に勢いを削がれる。









・・・その六年の間、それこそ様々な痛みに耐えつつセカンはカクノシンの剣・・・飛天御剣流を身につけていった・・・これは後々に明らかとなった事だが、飛天御剣流の古い習わしで飛天御剣流の伝承者は代々『比古清十郎』という名も継ぐために、飛天御剣流を使うカクノシンを師と慕うセカンは今の住家や人がいないところで師を呼ぶときは比古師匠などと自然に呼ぶようになっていった。

そして時間からして二年程前にもなるだろうか・・・その時、セカンは飛天御剣流の伝承者たる資格があると比古清十郎に言われ、死と隣り合わせの奥義継承に立ち向かい・・・見事、奥義をセカンは会得した。

ただ本来なら奥義を身につけた時点でその人物が比古清十郎と飛天御剣流伝承者を名乗れるのだが、セカンは自身の実力はまだ比古清十郎に及ばないからと比古清十郎を超えるまではその名を継がないと言った。

そのことがあってからまだ比古清十郎は『比古清十郎』という名を捨ててはおらず、今もセカンにとっての高い壁でありつづけている。尚、比古清十郎の纏っている外套。このマントは代々の『比古清十郎』から受け継いでいるもので伝承者はこれを身につける資格があるのだが、このマントは伝承者の力を平常時に抑える役目も持っていて古い単位で10貫程あり、今の重さで言うと37.5キロもあり更に筋肉を逆さに反らせるバネが仕込まれており、普通の者ではまともに動く事すら怪しい作りになっている。そんな代物を身につけているというのに、奥義を使う以外の選択肢でセカンは比古清十郎に一撃を入れた記憶すらない。セカンもそれなりに実力を身につけた身ではあるが、今の状態の比古清十郎にさえ勝てないという事がセカンの悩みでもあった。









「・・・まぁいい。とりあえず今日はもうこれまでだ、そろそろ行商人が来る頃だろう。俺は適当に売り物にする陶器を用意するから、お前は適当に茶でも用意しておけ」
「あ、そういえば・・・はい、わかりました。用意します」
少し弱った様子を見せていたセカンに比古清十郎は後ろを向いてから優しげな微笑を浮かべつつ来客があることを小屋の方に歩きながら告げ、セカンはハッと思い出したよう手を口辺りにやるとすぐに刀を納刀し、比古清十郎の横を通って小屋の方へ向かって走っていく。
「・・・さて、出来上がった物からどれを売りに出すか・・・」
その後ろ姿を必然的に見ていた比古清十郎は少し上機嫌そうだが、それをごまかすように独り言を口にしながらセカンの後を追うよう小屋へと向かう。









・・・最初、比古清十郎はセカンの事を厄介な拾い物だと思っていた。魔物や夜盗に襲われ命を落として独り身になる人間の話など、それこそ街を歩く人間に少し聞けば溢れる程出てくる。例えその人物に関係あろうとなかろうと。

見た目の若さに反して中身は四十三にもなる年齢で、更に普通の人間よりも多様な人生経験をしている比古清十郎からすれば、ハッキリ言えば自らとは関係ない位置にいる大多数のかわいそうな経験を持つ人間の中の一人程度の認識だった。セカンという存在に対しての認識は。

だがその認識はいやがおうでもそのセカンという存在と相対することで、変わっていった。






3/6ページ
スキ