時代と焔の守り手は龍の剣 第五話

「・・・まだ心の整理はつかんか」
「・・・はい、正直・・・」
見ただけで分かる動揺の残っている様子に、一応の確認を取る比古清十郎。案の定セカンから返ってきたのはそうだとの声だが、弱りながらもそれを自覚している分にはまだ現状を受け止められていると言えるだろう。
「・・・師匠は私がレプリカだと、予測がついていたんですよね?」
「・・・あぁ」
すると今度はセカンから比古清十郎に確認するような問い掛けをし、顔を上げて正面を見据える。精一杯の虚勢で凛とした顔を作りながら。
「それを今まで私に言わなかったのは、どうしてですか・・・?」
「・・・頼りない推測だけでそうだと言う程、俺は軽率ではない。だが事実が出て来た為、お前には知ってもらわねばならんと思ったから今明かそうと思ったんだ・・・今後の為にもと思ってな」
「今後の為・・・?」
「あぁ・・・言ってしまえばお前もヴァンに生み出された犠牲者の一人で、事実を知らずにいたならお前がレプリカだと気付いたかもしれんヴァンはそれを突きお前の動揺を誘っただろう。そうなる前に先に事実を教えておく方がいいだろうと考えた訳だが、事実を伝える事に俺は同時にためらいも覚えた・・・セカンの心に二度と消えん傷を作る事になり、動けなくなるやもしれんとな」
「!師匠・・・っ!」
・・・普段優しい言葉などかけられた覚えのないセカンにとって、自分の事で躊躇するような気遣いの言葉を聞いた事はほとんどなかった。そのことにセカンは先程の動揺を忘れ、優しさに震えて涙を浮かべかける。
「・・・だからこそ、だ。お前に問うぞ、セカン。今の話を全て聞いた上で尚まだ戦えるか?」
「えっ・・・?」
だがその涙は比古清十郎の問い掛けにより、溢れる前に止められる。
「今のお前はまだ継承者という立場ではない。すなわち使命に従い、行動を起こすだけの義理は存在しない。そしてお前は普通の状態とは言えん。今なら俺の小屋に戻り、全てが終わるまで待つ事も出来る」
「・・・それって、つまり・・・動揺してるくらいなら戦うな、ということですか・・・?」
「言い方を変えるならそうだ」
気遣いの言葉から一転して事態から引き離す言葉を聞き、セカンは恐る恐る確認を取り比古清十郎はそれを肯定して頷く。
「そんな、私大丈夫です!」
「・・・本当にそうだと言えるのか?なら今すぐヴァンに会ったとして、怖じけづかずにいれるか?今の状態で」
「・・・それは・・・」
すかさず勢いよく反論するセカンだったが、比古清十郎の冷静な返しに途端に口ごもる。
「・・・心意気は買おう。だがそれだけで乗り越えれるような精神状態ではない、お前は。百歩譲ってやれるにしても、今のお前には少し時間が必要だ」
「時間・・・?」
「そうだ。大丈夫だと言うにしても、もう少し心の整理をしなければお前が活動するのには俺から見て不安が残る。どちらにしろお前はしばらく小屋に戻れ、まだ時間はあるからその間に考えをまとめろ」
「そういうこと、ですか・・・」
「そうだ」
しかし比古清十郎から確固とした気遣いの見て取れる言葉を受け、セカンは下を向く・・・その瞳から涙を一筋、地面に落として。









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