禁忌とされた封印された過去との対峙

・・・その後は他愛ない世間話に話を移し談話を楽しんだ後フリングスは三人と別れ船に戻り、一路グランコクマに向かった。












「・・・そうか、サフィールはもう迷いを断ち切れたか・・・そればかりかアリエッタまで迎え入れて・・・」
「はい・・・ですが申し訳ありません、陛下。このような形で押し掛けてしまい・・・」
「いや、いい。あいつらの事を必要以上に気にかけないようにしていたのは俺の勝手な事だからな。それを気を使ってお前が個人的に報告をしたいと言い出したんだ、特に気にしてはいない」
それで謁見の間で報告を終えた後、皇帝の私室に向かいピオニーに個人的な報告を済ませたフリングス。だがフリングスのすまなさげな顔にピオニーは首を横に振る、気を使ってくれたことを理解したからこそ。
「・・・報告には感謝する、もういいぞ」
「はっ、失礼します」
ピオニーは表情を真面目に作り退出を命じ、フリングスは敬礼を返し退出していく。
「・・・サフィールは吹っ切った、か。それにアリエッタを受け入れるとは・・・あいつらしくないことをしたが、それがあいつの迷いながら出した過程で結論と言うことか・・・」
一人残ったピオニーは目を閉じ独り言を漏らす、その報告を噛み締めるよう。
「それもあのカクノシン、比古清十郎の存在があったからこそなんだな・・・現にジェイドもルークも、あいつがいてこそ変わったのだから・・・」
そして更に思い出すようジェイド達の近況を漏らすピオニーはそっと目を開け、近くにいたブウサギ達に寂しそうに目を向ける。
「老兵は死なずただ去るのみ、か・・・年齢で言ってみればもう俺も40にも近いオッサンだ、後何年皇帝をやれるかはハッキリとはわからん・・・なら俺も過去を思い出とした上で後の為に何かをやらないといけないな・・・」
それでピオニーの口から出るのはフリングスから出てきた比古清十郎の言葉にこれからへの考えで、そっと膝立ちになり一匹のブウサギの頭に手をやる。
「悪いなゲルダ・・・お前自身には関係のないことだろうが、言わせてくれ・・・もうジェイドにサフィールは独り立ちしました、随分と遅い独り立ちですけど・・・それでも俺の方があいつらよりも遅くなりました。でも言わせてください。もう俺はネフリーの事やケテルブルクでの事を吹っ切ろうと思います、これからの為にも・・・でないと俺がただ惨めな事になるって思ったから・・・」
ブウサギの名をゲルダと呼びながら見つめるピオニーだが、その瞳にはゲルダが映ってるようには見えず何か遠くを見てるかのような空気が漂っている・・・それもそうだろう、ゲルダと言うのはネビリムのファーストネームでそれをあやかりつけた名前だ。だからこそピオニーはゲルダに投影して話しかけているのだ、ネビリムに対するかのよう自身の想いを込め。
「今更で遅いと言われるのは承知してます・・・ですがこれはケジメです、あいつらが変わったのに対しいつまでも変わらない俺のままでは貴女にもあいつらにも顔向けが出来ないと思ったから・・・先生、貴女はこんな俺を許してくれますか?」
‘ブゥ’
「っ・・・ははっ、悪いな気を使わせちまった」
そのままピオニーは決心を告げて問いかける声を向けるが、ゲルダが図らずも返答のように見上げて出した鳴き声に我に返ったようにハッとして乾いた笑い声を上げる。
「・・・やめるよ、俺も。もうネフリーに固執するような事は」
そしてピオニーはゲルダを抱き、そっと呟き宣言した。ネフリーに対する想いを捨てることを・・・


















・・・この後しばらくしてピオニーは国内外問わず自身が結婚する事を発表し、人々を驚かせた。それでその心中の変化を聞いた者からエピソードが人々に伝わりはしたが、そう思うに至る経緯はほとんどの者が知るよしもなかった。

そしてその陰でかつてピオニーと時を共にしたネビリムの私塾の生徒達もまた同じよう、変化をしていたこともまたほとんど知ることはない・・・知ることはないが、その生徒達は全員憑き物が落ちたかのようその後の人生を穏やかに過ごしていった。












過去に囚われ過去を想った者達



龍の剣の使い手によりもたらされた過去を思い返す機



機を活かしその者達は過去を乗り越えた、囚われた想いを解放して



END







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