禁忌とされた封印された過去との対峙

「こいつに限らず言えることだが、人を殺さずにはいられん性を持つものがいる。持って生まれた物か、はたまた人を殺したことに甘露を飲んだような喜びを覚えたのかは知らんがな・・・俺が見たところではこいつは生まれの経緯もあり前者だ、到底こいつに心変わりなど求められる物ではない。例え未来永劫待ったとて、心変わりなどする事はないだろう」
「そ、そんな・・・」
「・・・おい、一つ聞くがこのディストを殺すことに躊躇いはあるか?」
「無いわ」
「!」
そのまま後ろを振り向く事もせず比古清十郎はネビリムを油断なく見据えながら諦めろと強い口調で述べるが、まだ諦められず口を挟む。そんな声に比古清十郎はディストを殺せるかを問うと、ネビリムが即答で殺せると返した事にディストは青い顔でよろよろと後退した。
「そういうことだ・・・所詮こいつはお前らの知るネビリム本人ではない、あくまでネビリムを模した一つの生命体にしか過ぎん。そしてこれからいかにお前がネビリムを求めレプリカを作ろうとして似たような考えの奴が出来ても、そこまで止まりの奴しか出来ん・・・いい加減に認めろ、死ねば人はそれまでだ。死者を生き返らせることなど不可能なんだよ」
「!・・・死ねば、それ、まで・・・・・・」
更に全く後ろを見ず比古清十郎は告げた、完璧なネビリム復活は不可能なんだと。目の前の二人のやり取りにようやくディストも現実を見たのか、衝撃を受けてよろよろした後呆然としたよう言葉を漏らし地面に膝立ちになり下を向き沈黙した。
「フフ、私がネビリムを模しただけの存在?・・・そんなことないわ。私の中に満ちたこの音素が私を完全な存在へと押し上げたのよ、被験者にも劣らない・・・いえ、それ以上の存在にね」
「黙れ・・・お前がどんな存在だろうが、俺から見ればお前は快楽の為だけに人を殺すただの人殺しだ。そして今日この場でお前の命は・・・終わる」
「フフ、出来るかしら?貴方達にそれが?」
ネビリムはそんなディストに関せずと恍惚の笑みを浮かべ自分がいかな存在かを語るが比古清十郎が殺気だち剣を構えたことに、ネビリムも楽し気な口調で戦闘体勢に入る。
「おいジェイド、お前はディストを待避させ守っていろ。巻き込まれでもしてそいつが死んだらここまで連れてきた意味がない」
「・・・私も戦うつもりでいたのですが・・・」
「お前のお守りをしながら戦うつもりは俺にはない、下がれ」
「っ・・・わかりました・・・」
すぐに比古清十郎は視線を変えずディストと下がれとジェイドに言うが、不満を滲ませ反論してくる。しかし役立たずはいらんと言わんばかりの言葉にジェイドは苦々しげな顔になりながらも、すごすごとディストの方に向かった。
(お守り、ですか・・・情けない物ですね、今の私にはそれを否定する事が出来ない・・・)
そしてディストの身を抱えながら、ジェイドは自身を情けないと感じていた。



・・・比古清十郎が言ったこと、これは確かな事実だった。ジェイドの実力、それは単純に考えても六神将にひけを取るものではない。だが今この場にいるネビリムの威圧感は六神将どころか、その上を行くヴァンすら遥かに凌駕せんものがあるとジェイドは感じ取っていた。そしてそれはジェイドより遥かに強い比古清十郎の方がより強く、より鮮明に感じていることだろう。



(強者と強者の舞台に相応しくない者は、存在することは許されない・・・もし私が援護をしようとしても無駄に終わるか、余計な手間しかならなかったでしょうね。うまくいっても、少しだけしかカクノシン氏の手間を省く事にはならないでしょう)
それでディストを待避させ距離を取ったジェイドの心中にはもし自分も共に戦ったならと仮定し、大して役に立たないだろうという予想があった。
(・・・せめてこの戦いを見届けましょう、それが私に今出来る事です・・・!)
しかし悲観はしていられないとジェイドはしっかりと前を見据える、比古清十郎とネビリムの二人の戦いが始まる瞬間を余さず見ようと。









17/32ページ
スキ