禁忌とされた封印された過去との対峙

・・・ネフリーという存在は二人にとって特別な存在だった。ジェイドからすれば自身の妹であり、ディストからすればジェイドの妹でもあり自身の事を強く否定も肯定もせずただ受け入れてくれる幼なじみの中での唯一の存在・・・そして二人に共通する同じネビリムの教え子という立場でもある。

ただネビリムの教え子という身分では同じだが、唯一の女性で年下という立場があって二人もネフリーには気を遣っていた。更に言うならこの場にいないピオニーは個人的にネフリーに思慕の念を抱いていた。それが故にネフリーという存在は男同士の中で異彩とまでは言わずとも、特別な存在だった。

そんな男としても肉親としても庇護すべき存在とも言うべきネフリーに対しては二人もあまり心配をかけたいなどとは思わなかった、レプリカのネビリムに関しては。それに加えて言うならネフリーはかつての幼なじみの中で唯一の既婚者という立場でもあるのだから、ジェイドもだが流石にディストも空気を読まざるを得なかった。下手に自分達のやる事に巻き込んでしまえば、今のネフリーの幸せが脅かされてしまう可能性もあるが故に。

また更に付け加えるなら今のネフリーはケテルブルクの代表という立場だ、かつての惨劇を巻き起こした存在をわざわざ復活させに行くなど気が気でないだろう。個人として見ても公人として見ても。そんなネフリーにレプリカのネビリムの事を知らせれば、計り知れない重荷を背負わせる事になり得る・・・それは二人の望む所ではなかった。






「・・・ふぅ」
・・・ディストと分かれ一人準備を整え、店から出たジェイド。そこでジェイドは空を見上げながらタメ息を吐いた。
「これでディストも少しは思い直してほしいのですが・・・やはりネビリム先生のことはまだ諦められないでしょうね、ネフリーに会ったとしても」
ジェイドが思うのは切望、諦めてほしいとの。しかしそれはないと自己完結し、寂寞を表情に滲ませながら首を横に振る。
「・・・過去は過去、全てを切り捨てると言わずともちゃんとした区切りを私達はつけるべきだった・・・あの後・・・その事に思い至れず、我々は何もしなかった。唯一区切りをつけれたのは我々より最初から距離があったことが幸いしてか、ネフリーくらい・・・情けないものですね、男が揃いも揃って・・・」
続いて浮かぶは自虐に満ちた声と情けないと自身で語っているかのような笑み・・・ジェイドは今となってわかった、ネビリムを含めたケテルブルク時代の過去への区切りをつけられていたのはネフリーだけということを。そしてこの場にこそいはしないがピオニーもネフリーを想うが故に、区切りをつけられてないということを。
「今更ながらにカクノシン氏が羨ましくなります・・・あの方程の強い意思があったなら、私も今のように後悔をしなくて済んだのかもしれませんね・・・とはいえその仮定はするだけ無駄でしょう」
そんなジェイドが口にするのは比古清十郎への憧憬の言葉だが、そこには本気の想いはない・・・わかっているのだ、ジェイドも。そうすることの無意味さや、比古清十郎がそんなことをするわけがないということは。
「・・・いけませんね、そのような仮定をするために我々はここに来たのではありません。ここに来たのは過去を清算するためなのですから、我々の過去を・・・」
しかしとジェイドは首を横に振り真剣な表情に変え、宿の方へと歩き出す・・・そう、仮定に意味はないのだ。今回のこの旅は自身も含め過去との折り合いをつけるために来たのだから。






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