時代と焔の守り手は龍の剣 epilogue

「・・・こうして貴方の酒に付き合うのは初めてですが、おそらくこれが最後でしょうね」
「だろうな。もう俺は余程でなければ小屋から離れて旅をする事もない」
・・・そして机と椅子を用意し座った二人は、時間をかけて酒を酌み交わしていた。時間も大分経ってグラスを傾け名残惜しそうに最後と切り出すフリングスに、比古清十郎は酒瓶を傾けながら淡々と同意する。
「・・・一つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」
「・・・なんだ?」
「・・・あれで、よかったんですか?セカンさんのことは・・・」
「・・・あいつが自分で選んだ、そして俺もそれを見極めた上での事だ。それ以上の事をすれば俺がただの愚か者になりかねん、そう思ったからあれで済ませただけだ」
しかしとフリングスは聞かねばならぬと思ったのか、意を決して先程のやり取りの事を問いかける。その問いに不本意と空気で語りつつも意地は残っていたからこそ我慢したと言い、酒を煽り飲む。
「それに・・・もう俺も今年で46にもなる年寄りだ。そんな男が意固地に人の人生を縛り付けていいはずもない、自分の身勝手さでな」
「46・・・ピオニー陛下もジェイドさんもそうですが、正直貴方達のその若さが私には信じられないのですが・・・」
更に比古清十郎は瓶を口から離し自身を年寄りと言うが、前から全く変わらないその姿にフリングスはジェイド達も引き合いに出し表情をひきつらせかける。
「まぁ見た目もそうだが腕も他の奴らに負けるつもりはない。しかし預言もなくなった今となっては悠々と陶器を焼くだけの、ただの世捨て人の老兵に過ぎん。そんな世捨て人が例え見た目は若かろうが必要以上に前進しようとする若い奴らの邪魔をするなど、愚かしいだけだ。言うだろう、老兵は死なずただ去るのみと・・・役目を終えた老兵は身を引く、それでいいんだ。時代を若い奴らに託すことでな・・・」
「っ・・・カクノシンさん・・・!」
しかしそんなものは意味がないと自身が引く事を満足げに笑んで語る比古清十郎に、フリングスは何とも言えない粟立ちを覚えていた・・・酒の効果もあり両者共に多少感情的になっていたのもあるだろう。普段の比古清十郎だったら言わないであろう経過はどうあれ潔くその身を引くと宣った発言に、フリングスはその在り方に相当に感心を覚えていた。
「・・・妙な方向に話が進んだな。気分を戻してまた飲み直すぞ」
「・・・えぇ。ですがもうストックもないので、替えのお酒をもらってきましょう。何かつまむものが欲しいならもらってきますが・・・」
「いらん。肴はお前との話で十分だ」
「えぇ、わかりました」
比古清十郎もその空気に改めて飲むと言い、フリングスは酒がもう残ってないからと立ち上がりつまみも必要かと問いかける。しかし肴は足りていると言う比古清十郎にフリングスは微笑んで頷き、退出していった。
「ふ・・・俺もヤキが回ったものだな、人の話で飲む酒がうまいなどと。しかし・・・悪くない」
一人残った比古清十郎はかつての自身にない変化に悪態をつく言葉を自身に対して吐くが、最後に言ったよう上機嫌に笑んでいた。
「・・・帰ってシンクに酒でも勧めてみるか。これからは時折相手をさせるのも悪くはないだろうな」
そして帰った後のシンクとのことを思い、比古清十郎は笑みを深くする。また楽しみが出来たと・・・















・・・それから船は数日をかけてケセドニアに着き、比古清十郎はそのまま船を降りフリングスと別れた。何の心残りもないと、二人は穏やかに微笑を浮かべる形で・・・そしてその瞬間からが、本当の意味での始まりとなった時であった。






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