時代と焔の守り手は龍の剣 epilogue

・・・そして一対一の形で邪魔が入らない状態になったルークと比古清十郎。
‘ドサッ’
「・・・えっ?」
だがそこで自然に外套を脱いで外した比古清十郎に、ルークは呆けた声を漏らす。
「なんだ?」
「いや、なんでそれ脱ぐのかと思って・・・つーかなんだよその体・・・!」
「飛天御剣流において九頭龍閃を用いる試験は奥義の伝授以外にないが、そこで‘比古清十郎’は全力を持って九頭龍閃を放たねばならん。だから俺も力を惜しまず、全力でやってやろうと思ってな」
「お前本気で俺を仕留めにきてないか!?」
「何を言う、今言ったように殺さんように手加減は施してはやる。ただし正真正銘の本気を込めて、だがな。それにそれくらいでなければ試験とは呼べんだろう」
「「「「・・・」」」」
・・・本気を込めての手加減、矛盾した表現だがそれを本気で成さんとする比古清十郎。始めこそ仕留められるかと比古清十郎の外套の下の体を初めて見て恐々としていたルークだが、比古清十郎が嘘もなにもなくただ本気でやると言い切ったことに周りも含めて何も言えない。
「さぁ、始めるぞ・・・覚悟はいいか、ルーク」
「っ・・・あぁ・・・っ!」
そしてもう後は知ったことではないと言わんばかりの問い掛けが道場の中を埋め尽くさんばかりの殺気に満ち、ルークは息を飲み冷や汗を流しながらしっかりと目を見開き毅然と立って頷く。
「・・・行くぞ」



「飛天御剣流・九頭龍閃!」



・・・それは一瞬の事だった。比古清十郎の刀を抜いての構えと合図と共に、九つの剣撃が全く同タイミングで放たれた。手加減などあるのか、そう思われる速度と殺気と共に。
‘パラッ’
「・・・・・・っ・・・えっ?」
・・・そしてその九頭龍閃を受けたルークだが、当人は服に髪を多少こそ切り払われた物の・・・全くの無傷と呼べる状態でそこに立っていた、あれだけの激しい技を受けたのにだ。現に九頭龍閃を受けたのにも関わらず痛みに声を上げることもなく、斬られた服や髪に少し間が空いて気付いたくらいだ。
「・・・ふん、気にいらんがこれで試験は終了だ」
「えっ・・・終わり、なのか・・・?」
「どうした、拍子抜けというような顔をしているが?」
「あ、いや・・・正直あんな技くらったんだからいてぇのかなって思って身構えてたんだけど、全く痛くないし服に髪だけ切れたから・・・」
「言っただろう、本気を込めて手加減をすると。これはその結果だ、俺からすればさして難しくもない物と言えるな」
「・・・っ!」
そんな姿に刀を納めながら殺気を一瞬で霧散させ終わりと告げる皮肉げな笑みの比古清十郎にルークは呆然と自分の体を確認しながら実感の無さを呟けば、自信しか浮かんでない笑みと言葉で返され愕然とした表情を浮かべる。が、すぐにその表情は力の抜けた笑みに変わる。
「あんた・・・すげぇな、本当に・・・正直、マジに命終わるかもって俺思っちまった・・・あの技で・・・」
「俺がそんな下手をうつわけがないだろう。まぁビビって身を引かなかったことに関しては及第点をくれてやろう、あそこで動いていたなら間違いなく死んでいただろうからな」
「はは・・・」
それで口にされるのは正直な感想な訳だが、自信と共に珍しくも比古清十郎なりの誉めの言葉がかかったことにルークは乾いた笑い声を上げる。
「ルークさん、師匠・・・」
「セカン・・・」
・・・だが元々こんな状況になったのはセカンが理由にある。そのセカンが複雑そうな顔で二人に近づいてくることに、ルークも比古清十郎もそちらに振り向く。







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