時代と焔の守り手は龍の剣 epilogue

「師匠、一体何をするつもりなんですか・・・?」
「今から俺は九頭龍閃をこいつに叩き込む、無論死にはしない・・・恐怖に僅かでも震えず動かないなら、の話だがな」
「っ、九頭龍閃を・・・!?」
そこに今度はセカンが不安げに試験の中身を問えば、その返答に信じられないと目を見開く。
「失礼、セカン・・・九頭龍閃とは一体どのような技なのですか・・・?」
「・・・九頭龍閃は飛天御剣流の奥義を伝授するために作られた、いわば試験用の技です。ただ試験用のとは言いますが、九頭龍閃は飛天御剣流において奥義以外では実質的な攻撃力で他の技の追随を許さない威力を誇ります。そして同時に防御も回避もまず不可能な技で、まともに食らえばまず生きていられる人はいません・・・」
「「「・・・っ!」」」
ジェイドはただならぬ様子のセカンに九頭龍閃の実態を聞くと、その技のあまりに凶悪な実態を述べた冷や汗つきの回答にルーク達の表情が一気にひきつって固まる。
「まぁそれも俺の絶妙な剣さばきがあればかすり傷に服が多少斬られる程度に収まる、現にセカンも一度九頭龍閃を受けているからそれはよく承知しているはずだ」
「そうなんですか、セカン?」
「えぇ・・・飛天御剣流の奥義の伝承にはまず九頭龍閃の伝授からと正面から受けさせられましたから、剣術のおさらいを兼ねた講釈を含めてただジッと立てと言われて・・・」
「それはまた・・・なんとも・・・」
そんな姿に刀の峰部分を肩に乗せつつ比古清十郎は自分には自信と前歴があると言いジェイドが再度確認を取れば、セカンが緊迫感を持ってその時の事を思い出しながら答えたことでどうとも答えられず言葉を濁す。
「・・・どうする?今この場でセカンに言ったことを撤回するというのなら、九頭龍閃を叩き込むなどということはやめてやるぞ」
「えっ・・・師匠・・・!?」
だがここで最も意外な言葉、中止を選択するかとの問いがかかったことにセカンだけでなくジェイド達も比古清十郎を有り得ないものを見るように目を見開いた。比古清十郎らしくない、そう言える言葉に。
「ただセカンを惜しまず、命を惜しむというなら俺はもう二度とキムラスカの地を踏ませる気はない。そのような臆病者になどセカンを任せるつもりは俺にはないからな」
「・・・っ」
しかし続いた言葉にセカンはたまらず息を呑んだ、比古清十郎の意図が珍しくもわかりやすく・・・ルークを試してると同時に、自身を大切に想っていると理解出来た為に。
「・・・見くびんな」
「何・・・?」
「見くびんなって言ったんだよ・・・そりゃ俺はお前やセカンよっかよえぇ、それは否定出来ねぇし死ぬのが怖いってのも事実だ・・・けどだからって俺を信頼して決断してくれたセカンのことなどを命惜しさに諦めるなんか出来る訳ねーだろ!」
「っ!・・・ルークさん・・・!」
「・・・フン」
・・・だがルークの決意は固かった、それこそ恐怖を凌駕するように。一人黙っていたルークは意を決した声と挑みかかるような視線を向け真っ向から比古清十郎の勧めを拒否した、セカンを諦められないと。セカンはそんな答えに驚きと共に顔を真っ赤に染め、比古清十郎は不快ではないといった様子で口角を僅かに上げて軽く笑う。
「・・・それにさ、俺はお前の事も信頼してんだぞ。カクノシン。お前の腕なら失敗しないってな。なのにお前が怖くなったからって逃げたら、マジで俺がただの臆病者になっちまうじゃねーか・・・!」
「ほう、随分と俺を買ってくれているようだな・・・まぁいい、受けるというのなら距離を取れ。今から九頭龍閃を放つ・・・これがお前にくれてやる最初で最後の、俺のとっておきの試験だ」
「あぁ・・・悪い、皆はちょっと離れてくれ」
「「「・・・」」」
更に比古清十郎ていう人物を知ってるからこそやれると不敵な笑みまで浮かべるルークに、比古清十郎は満足げに笑みを深めた上でいよいよの開始の準備をしろと告げる。ルークもその声に従いセカン達に離れるように言いつつ、自身も比古清十郎と一対一で相対するよう中央に移動する。セカン達もそこまで来ては何も言えず、ただ事態を見届けんと道場の端へと移る。








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