時代と焔の守り手は龍の剣 epilogue

「・・・それでシンクは来ていないんですか?」
「面倒だからいいと一言で断った。元々からあまり人のいる場所を好まん奴だから煩わしいのを避けたかったんだろう。今頃は一人で陶器造りに没頭しているはずだ」
「そうですか」
そこでふとジェイドが辺りを見渡しシンクの所在を聞けば、来てないと簡潔な理由つきで返され納得する。が、すぐにその表情が固い笑顔へと変わる。
「・・・それで、彼女は?」
「・・・セカンの事か」
「・・・えぇ」
・・・意を決して出した質問はセカンの事。そのジェイドの問いに一気に比古清十郎の周りの空気が質量を持ったように極寒の冷気へと変わった。
「あいつなら先に宿に戻っている・・・決心がついた、とな」
「そ、そうですか」
「そこでだ、頼みを聞いてもらおうか?・・・ジェイド」
「っ・・・なん、でしょうか・・・?」
セカンが今どうしているか、そう聞き冷や汗混じりに頷く中更にジェイドは冷や汗を頬に増やしていた・・・言うことを聞かないなら殺す、そうありありとわかる殺気と共に肩を強い力で握られたのだから。
「あいつと誰の気兼ねなく会える時間を設けろ、まさか断る訳はないだろうな?」
「っ・・・もし、断れば・・・?」
「ファブレ邸かバチカル城、どちらかで惨劇が起こる・・・かもしれんな」
「・・・!」
冗談に聞こえない冗談、いや確実に現実に目の前の男はする。要求を告げられ断った場合のことを匂わす冷酷な笑みを前に盛大にジェイドの顔はひきつった。
「・・・わかりました、フリングス少将が帰られる前にはなんとか時間を取るように言っておきます。あの方も貴方からの言葉と言えば死に物狂いで時間を作ると思いますからご安心ください」
「そうか、なら日取りが決まったなら宿にまで伝えに来い。一般人である俺がルークに会いたいからとファブレ邸に城に行っても許可など出んだろうからな」
(・・・断れば城を制圧くらいそれこそ余裕でしそうな人物が何を、と本当は言いたいけれど言えませんね・・・)
それでたまらず了承を返せば比古清十郎は良識的っぽい事を言って手を放すが、ジェイドは心中だけで文句を言う。実際に言葉にしたら自分の身に何が起こるかわからないために。
「まぁこの話はこれくらいにしてやろう、あまりお前からしても気分のいい話でもないだろうからな」
「(自分の思ってることを相手に押し付けないでください、私はどちらかと言えば賛成なのですから)・・・では何か聞きたいことはおありですか?今でしたらフリングス少将から色々お話をお聞きしましたから、ある程度でしたらマルクトの事もお答え出来ると思いますよ」
そして比古清十郎が露骨にこの話は嫌だろうと決めつけ話題転換をするわけだが、ジェイドはその文句をけして言葉にせず何でも答えると返す・・・重ね重ね言うが、本気で何が起きるかわからないために。















・・・それで数時間後、人の流れもあらかたなくなったことにより比古清十郎は満足した様子で宿に戻ると場を後にした。その姿が見えなくなった後、露骨にホッとした様子を浮かべたジェイドを残し。

しかし悲劇はまだ残っていた・・・夜になって人もいないということで兵士を連れずファブレ邸に帰宅したルークは常にない申し訳ないと空気で語る様子で待っていたジェイドから事の顛末を聞き、喜びの後に深い絶望の表情を浮かべた。その時ジェイドは流石にそうなるだろうなと同情半分、他人事だと思う気持ち半分でルークの姿を見ていた・・・もう自分は矢面に立たない、むしろ立たなくていいのだからという安堵と共に。

とは言え拒否すればそれこそ何が起こるかわからない恐怖があったため、ルークはフリングス少将が帰るまでには死んでも時間を作るとジェイドに何度も首を振った。それこそ鬼気迫る様子で・・・















・・・そんな悲壮な様相を浮かべたルークだったが、一朝一夕な時間を作ることは今の立場から言えば非常に難しい事であった。責任ある立場に立っていることと共に、今は政務を担当している為に。

しかしルークの必死さは実を結び、なんとかフリングスが帰る時に見送り件観光案内を務める役目を得ることで事なきを得た。それなら多少の時間は取れると知り、ガッツポーズをこれでもかと力強く浮かべる形で・・・










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