時代と焔の守り手は龍の剣 epilogue

「・・・それよりも行かなくていいんですか、下には?」
「人のごった返す中で順番待ちをするなど性に合わん。どうせ数時間もすれば人の流れも消える、酒でも飲んで待っていれば悠々と帰れるくらいにな」
「・・・相変わらずですね、貴方は」
ジェイドはそこでまだ下に行かないのかと聞けばまた比古清十郎らしい理由に笑みを浮かべる。
「ではまだ少し時間もあるのでしょう。下に行きたいと思われるまでしばらくお付き合いしますよ。今日は私も時間をいただいていますからね」
「フン、白々しい。初めからそのつもりで戻らない理由を探っていただろう、お前は」
「・・・フ、見抜かれていたようですね。しかしそれで不快な顔をしない辺り、貴方も私に付き合ってくれるのでしょう?」
「わざわざ暇を潰してくれるというんだ、付き合わん理由はない」
「そうですか、貴方らしい」
それで自主的に話をしないかと持ちかけるがその狙いをあっさりと看過された上で了承を返され、ジェイドは笑みを深める。
「では早速ですが、シンクは元気ですか?2年前に会った時は大分様子が変わっていましたが、あれからどうでしょう?」
「特に変わりはない。強いて言うなら思いの外あいつの筋はよかった、と言った所だ。おそらく環境もあって陶器造りに集中出来る事も奴の追い風になったのだろうな。その内奴の名で陶器を売りに出すことも視野に入れている」
「ほう、それはそれは・・・」
了承が取れたことですぐにとジェイドはシンクの話題から切り出すと、悪くないと示す中身で返され感心したように頷く。












・・・三年前、ダアトにイオンを護衛して送り返したシンクはそのまま神託の盾を辞める事を伝えた上で今まで貯まっていた給与と荷物と共にそのままダアトを後に旅に出た。

それからの足取りはケセドニアで染髪剤を買い髪を茶色く染めて仮面を外した後は特にシンクが語ることはなかった為知るものも少ないが、比古清十郎が聞いた所によれば旅をしていた時の話をしている時は大した感慨を見せた様子もなかったことから特に得るものもなかったとそう認識している。

そんなシンクが比古清十郎の住む小屋を訪れたのはイオンをダアトに送り届けた半年後の事だった。それでシンクは言われた通りあてもないから来たと言えば、これまた比古清十郎はなら小間使いのように扱きながら陶器造りを教えてやるとあっさりとシンクを受け入れた。まるでそうなることが決まっていたと言わんばかりに当然と言った様子でだ。



・・・それで時が経ちキムラスカとマルクトの戦争が詠まれた年を越えキムラスカに戻ることになったルーク達だが、ここでルーク達は帰る経路に海路を選ばずあえて陸路でカイツールを越えて比古清十郎に会ってから帰る道を選んだ。この期を逃せばいつ会えるかわからない、そうルークが考え望んだが為に。

そこでルーク達は比古清十郎に会う傍らシンクにも会った訳だが、そこにいたシンクは明らかに前と変わっていた。姿としてはホド特有の着物(後でルークがジェイドに聞いた所、作務衣と言う物らしい)に身を包んで頭にタオルを巻いていてその時点で神託の盾にいた時とは全く別物と言えたが、更に変わっていたと言えたのはその表情であった。前は仮面越しで伺い知る事はあまり出来なかったとは言え基本シンクが口元に浮かべていたモノはどちらかと言えば愛想がなく皮肉げな物だったが、仮面を取ったその表情に口元は穏やかそのものと言った様子であった。

とは言っても話をしてみれば相変わらずのひねくれた口調ではあったが、棘が取れたその雰囲気にルーク達は驚きを覚えざるを得なかった。

それで後で本人のいない所で比古清十郎に話を聞いてみたら、最初こそ不満に満ちた文句をよく言っていたが陶器を失敗か成功かを問わず陶器を作っていく内に自然と今のようになっていったとのことだった。

これは元々の生まれから人間と向き合うことをあまり得意としなかったシンクが、土という無機物でありながら深くも自分の心に素直に応えてくれるモノと向き合う事で今まで抱えていた険が取れたのだと比古清十郎は言った。それに加え比古清十郎の住む部屋に余計な人が来る事はあまりない、来ても比古清十郎の信用と付き合いのある食料を運びに来た商人か陶器を買い付けに来た商人くらいだ。その環境がシンクの気持ちを和らげてもいた、煩わしい思いに振り回されることも少ないために。









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