時代と焔の守り手は龍の剣 第三話

・・・セカンから見て、ティアがリグレットに躊躇いなく攻撃出来る可能性は極めて薄いと感じていた。ティア自身はやれる、大丈夫だと言うのも含め。

だがセカンはそんな親しい者になったら途端に手を止めるという可能性のある心根を黙って見過ごす気はなかった。いざという時その止まった手のせいで仲間が殺されてしまったでは、言い訳などされても殺された人間が惨めなだけだ。

・・・戦う意味を知っているはずの人間が戦場で戸惑うのと、戦いすらろくにしたこともない人間が戦場で戸惑う。これは比べるまでもなく雲泥の差がある。ティアがルークのような立場だったらそれはセカンも大いに気を使い戦わないようにさせよう。だがティアは兵士が戦う時に覚悟せねばならぬこと、敵であると認めたなら例え親兄弟であろうとも敵であるという戦場で誰もが知る不文律を認めきれていない。例えそう認めきれていなくとも表情には出さずに耐えるものだが、ティアはあからさまに戸惑っていた。

そんな様子が見えただけに、セカンはリグレットとティアを直接対峙させるような構図を避けた。失敗をされるわけにはいかないと思い、いらぬ手心を加えられてはと思い。



(ティアさんは兵士に向いていない。けどそれを本人に言った所で無駄ね・・・)
そして左舷ハッチの入口前の扉で出るタイミングを計りながら、セカンは兵士を辞めた方がいいと言いたい気持ちを内心で抑える。
・・・人に覚悟を求める割に、動揺するか気が緩まればすぐに兵士の仮面が取れ素に戻る。例えそれが敵と分かっても。セカンは言葉は悪いとわかっていながらもこう思っていた、‘個人的感情で物を見すぎだろう’と。だが本人に言ってもそれは頑なに否定するばかりで認める気はないだろう、そう思ったからセカンはそれ以上の追及は止めていた。



「では・・・行きます」
ティアに対する考えもそこそこにしていると、ジェイドが合図の言葉を皮切りにハッチの扉を開く・・・
「っ・・・!」
‘ヒュッ・・・トンッ、ザシュザシュッ!’
「うわっ!」
「ぐわぁっ!」
その瞬間セカンは走り出し扉を通ると一気に飛び上がり、階段の下にいたイオンの両脇を固めていた神託の盾二人を着地してから抜刀後、目にも止まらぬ早さで兵士二人を後ろから切りかかり倒す。
「っ!何者!」
兵士の断末魔の叫びに気付き、厳しい剣幕の表情で先を歩こうとしていたリグレットはホルスターから二丁の譜銃を抜きながら振り返り、トリガーを引く。
‘ダァンダァンッ!’
「・・・っ!」
放たれた銃弾を姿勢を低くして交わし、同時にセカンはイオンの横を走り抜ける。
「・・・はぁっ!」
「くっ・・・!」
そしてその勢いのまま刀が届く間合いに入ったセカンは横なぎに切り付け、たまらずリグレットはバックステップで避ける。
「おっと、そこまでです」
「・・・死霊使い・・・」
だがそうやって避けた先にはリグレットの動きを予測していたかのよう、横から首筋に鋭利な刃先の槍を向けるジェイド。
「どうやらイオン様も無事に取り戻せたようですね・・・さ、次に貴女には武器を捨てていただきましょうか」
「くっ・・・」
横目でチラッとジェイドが見たのはルークとイオン、そして隠そうとはしているが複雑そうにリグレットを見詰めイオンの前に立つティア。その光景を見ながらジェイドは片方の手で眼鏡を押さえつつ武器を捨てるように宣告し、リグレットも打つ手なしと断じて悔しそうに譜銃を地面に落とす。
「とりあえず貴女にはタルタロスの中に戻っていただきましょう、よろしいですね?」
「ちっ・・・先程の奇妙な音からどこかうまくいかないとは思っていたが、こうまで屈辱を味わされるとはな・・・」
それを見届けジェイドは更にタルタロスの中に行くよう言い、リグレットはこうなった事態に対し怒りを滲ませながら吐き捨てる。
(これで、しばらくは時間は稼げる・・・)
今は龍鳴閃により、タルタロスの中にいる魔物はしばらくの間は使い物にならない。それにジェイドのやることだから、ハッチの扉に対しても何か細工を施す事だろう。
少なくとも何時間分かは神託の盾の追っ手はまける、そう思ったセカンは階段を登るリグレットとジェイドをしっかりと注視しておく。









・・・それからリグレットがタルタロスの中に戻りジェイドが扉を開かないよう細工をしたあと、セカン達はすぐさまその場から撤退していった。









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