時代と焔の守り手は龍の剣 第二十二話

「後はお前で考えろ。俺の考えた手順を正確に踏めばその通りにアッシュを誘い出せるとは限らんし、そもそも実戦で練習のように綺麗な形で戦うことなど有り得ん。そのあたりは自分でどうするか考えて決めろ、俺が言ってやれるのはここまでだ」
「うん・・・ありがとう、カクノシン」
それで比古清十郎は後は自分次第と言うと、ルークはそうすると礼を言って頭を下げた。









(狙いは悪くない。アッシュのような奴が油断しているところに一発で鼻っ柱をへし折るのは効果的だ)
・・・ここで時間は二人の戦いの場に戻る。
比古清十郎は内心でルークの取った行動を称賛する・・・戦いにおいて初撃と言うのは案外重要なのだ、肉体的にも精神的にも。その点で精神面で言えばまさか先制攻撃を喰らうと思っていなかったアッシュはプライドもあり、腸が煮えくり返っている所だろう。
(それに少なからず奴は軽くない傷を負った、これは予想外にしても後々に響いてくるのは間違いない)
そして肉体的にも効いた事を比古清十郎は確信した・・・ルークの烈破掌は確実にアッシュの肋骨にヒビ以上のダメージを与えていると。
(ま、後はルーク次第だ・・・お手並み拝見といこうじゃないか)
条件が整った以上、後は本人次第。比古清十郎は笑みを浮かべつつ、立ち上がったアッシュと対するルークに注目する。



「テメェェェ・・・この屑があぁぁぁっ!」
‘キィンッ!’
「はっ!?・・・前から思ってたんだけど、何様のつもりだよお前!?」
‘ガッ!’
「っ・・・!」
・・・アッシュはまた馬鹿の一つ覚えのようルークに怒りをぶつけながら斬りかかる。だがルークはなんなく受け止めつつその言葉に対し反論しながら刀を押し返せば、アッシュはあっさりとたたらを踏み後退する。
「俺に会えば口癖みたいに屑、屑、屑!俺がお前に一体何をしたってんだ!」
‘キィンキィンッ!’
「っ、テメェはっ、俺の居場所を奪った!」
「はぁっ!?何も喋れない、何も出来ない状態の俺をファブレにやったのは師匠だ!なのになんで俺が奪ったになんだよ!?普通に考えりゃ師匠に恨みがいくだろうが!それともなんだっ!?自分を助けてくれた師匠に責任はない、とでも思いたいから八つ当たりで俺にその責任を押し付けてたんじゃねぇのかよ!?ファブレからさらったのは師匠ってことを忘れて!」
「っ!」
‘ゴッ!’
「がっ・・・!」
すかさず前に踏み込み逆刃刀を何度もぶつけるルークにアッシュは防戦気味に剣で受け止める。だが同時に交わされる激しい会話にアッシュは一瞬止まってしまい、その隙を狙ったルークの切り払いの一撃を逆側の胴でモロに受けてしまった。
「・・・おい、まさかお前図星か?」
「っ・・・ち、違う・・・悪いのはテメェだ、この屑が・・・っ!」
「・・・っ!」
そこで追撃をかければ更に有利になる場面かに見えた、だがルークは静かに怒りを伴わせ八つ当たりだったのかと確認の問いかけをする。だがその問いかけに反射的にヴァンではなくルークが悪いと動揺しながら言ったアッシュに、ルークはギリッと力強く歯を噛んだ。
「この期に及んでまだ俺にだけ責任を押し付けんのかよ・・・つくづく救えねぇよ、お前・・・!」



・・・ルークは自分なりにアッシュに対しての負い目や責任を感じていた、なんだかんだ言っても自分が『ルーク』の位置を取ったことに変わりはないから。だがそれと同時に自分だけが悪いわけではないと、ヴァンがいることから理解してもいた。だが目の前のアッシュはまだヴァンを盲信しているかのようただルークを責めた、責任が明らかにヴァンに重く比重が傾いているのにも関わらずだ。



その事実はルークに今までに無いほどの憤りを生み、同時に今までに無いほどの冷静さを生んでいた。
「・・・来いよ。俺のせいにしたいならもう別にどうだっていい、それはもうお前の勝手だ。けどそのお前の八つ当たりも何もかも全て含めて・・・倒す」
「っ!」
・・・怒りと冷静、相反する物であると思われがちだが怒りというのは度を越えるとスッと頭をクリアにするものでもある。あまりに怒りに集中して染まりすぎるが故に、他の念を振り払う形で。そうなれば集中という物の結果、クリアに物事を冷静に見れる・・・その点でアッシュもその境地に達する事も出来るのではと思えるが、ヴァンのことに目を反らしながらルークに怒りを向けるようなアッシュでは到底無理な芸当と言える。
ルークはそんな境地に達して冷静な怒りを伴わせた瞳で倒すと宣言をすると、明らかに押されたと分かるくらいにアッシュはたたらを踏んだ。ルークに迫力負けする形で。










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