時代と焔の守り手は龍の剣 第二十二話

「・・・そうだ」
「ハッ!随分とイカれてんな、テメェ!そんな人一人殺せそうにもない刀で俺に挑もうとはな!」
「なんとでも言えよ。けどこの戦いで勝つのは・・・俺だ」
「んだと・・・!?」
質問にルークが肯定を返すと、アッシュは水を得た魚のよう勢いよく罵倒を向けてくる。だがルークが罵倒に気にした様子も見せず強い意志を込め静かに勝つと返すと、アッシュはまた苛立ちを浮かべてルークを睨む。
「まだ待て、アッシュ・・・一応俺の合図を受けてから始めろ。そして少し距離を取れ」
「・・・チッ・・・」
ピオニーはすかさずそこで制止をかけ合図をかけるから用意しろと言ったことで、舌打ちを隠しもせずアッシュはルークに背を向け一旦距離を取る。
「・・・よし。なら勝負を始めるか」
「「・・・っ!」」
それでアッシュが一先ずある程度距離を取りルークに視線を向け直したことでピオニーは邪魔にならないように下がりつつ、開始を告げると言えば二人の間に一気に緊迫した空気が張り詰めた。



「・・・始め!」




「「・・・おぉぉぉっ!」」
‘キィンッ!’
・・・そしてピオニーが合図を出した瞬間二人は示しあわせたかのよう走り出し、気合いの掛け声と共に剣と刀を全力でぶつけた。その剣と刀はどちらかが弾かれるということはなく、カチャカチャとつばぜり合いの状態になり拮抗した力で互いに押し込もうとしている。
「っ・・・!」
‘スッ’
「なっ・・・!」
だがその状態から唐突にルークが逆刃刀から力を抜いて身を左横に動かし、剣をいなすよう刃を滑らせたことでアッシュの体がたまらず前につんのめる。
「烈破掌!」
‘ゴッ!’
「がはぁ・・・!」
‘ズザザザッ’
その隙を見てがら空きになった脇腹に烈破掌を叩き込むルーク。その威力と不利な体勢にろくな抵抗をすることも出来ず、アッシュは苦悶の声と共に吹き飛ばされ地面に倒れた。
「・・・テメェ、この屑が・・・っ・・・!」
「っ・・・」
だが少ししてすぐに身を起こし敵意の多大にこもった目と声を向けるアッシュ。しかしその瞬間わずかに漏れた声と細められたその目を、ルークは見逃していなかった。
(どうやら手傷を負わせることには成功したようだな)
それは同時に比古清十郎もその瞬間を見たことと同義でもある。比古清十郎は内心でうまくいったと、確信していた。












・・・ここで時間はこの戦いの前日までさかのぼる。



「・・・なぁ、カクノシン。俺はアッシュに勝てると思うか、今の腕で?」
「・・・俺が見たところ、純粋な腕で言えば五分五分という所だ。だがそれは実戦という場においてではない、あくまで試合ならという意味でだ」
「・・・それって、実戦じゃ俺はアッシュに叶わないって言ってるのか?」
「実戦を経験しているかどうか、この差は少ないようでいて大きい。戦いの場は稽古の場と違い何が起きるか分からん上、実戦だからこそ使える戦術もある。その点で不利、と俺は見ている」
・・・それはアッシュと戦う前の最後の剣術稽古を終えた後の事だった。ルークが勝算はどうかと比古清十郎に問い掛けると、実戦経験の差が不利を産むとあくまで現実的に答える。
「だが俺の稽古は並大抵の実戦よりも厳しい、それは確かな力としてお前の血肉になっているだろう・・・それにアッシュにつけ入る隙は十分にあると俺は見ている。そこを突ければお前の勝ちの確率は上がるだろう」
「つけ入る隙・・・?」
しかしと勝算もあるとつけ入る隙と言う比古清十郎に、何をとルークは視線を向ける。
「まず一つ上げるなら、ヤツはお前を相手にする場合頭に血を上らせて戦うだろうという事だ。ヤツはお前を殺そうとやっきになり、その考え故に真っ向から叩き伏せようとしにくるだろう・・・そこがまず一つ、つけ入る隙と言える」
「・・・二つ目は?」
「それは自身の優位性を信じて疑わぬが故の油断だ。ヤツは何を言ってもお前の事を評価をしようとはせん、例え自分以上の事をされてもだ。更に言うならお前が使う逆刃刀を見れば、まず間違いなく嘲りの言葉を向けてくる。そんなもので戦うのかとな・・・だが逆刃刀だろうと素手だろうと、器量に状況次第では真剣を圧倒する事は出来る。そんなことすら考えずただお前の事を馬鹿扱いするだろう。しかしそれが、油断になる」
「・・・つまりその二つをうまく活かせれば、俺はアッシュに勝てる確率が上がる・・・?」
「俺はそう見ている」
それでつけ入る隙を比古清十郎は頭に血を上らせることと油断してくるだろうことを上げれば、ルークは呆然としかけながらもその二つを利用する事が鍵かと確認し、比古清十郎はそうと返す。










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