時代と焔の守り手は龍の剣 第二十一話

「・・・でもま、私らはセンセイに感謝してるよ。何だかんだ言ったってセンセイは世界の存続の為に動いてくれてるんだ、それも預言を無くすってオマケ付きでね・・・手段は誉められた物じゃないってのは分かってるよ、こんな通り魔紛いな事はしてるんだから。ただそれくらいやらなきゃ世界は変わらない、変わらなかったからね・・・」
「・・・礼をと言うならこっちもだ。お前達は良く俺に協力してくれた、それこそ死体の後始末などという汚れ仕事をためらいなくやるくらいにな・・・お前達がいなければこれ程順調には行っていなかっただろう」
「気にすることはないさ。私らに出来るのはこれくらいだからさ・・・それに多分、こうやって協力関係でいるような状態はそろそろ終わるだろうしね。なら先に言うことは言っておこうと思ってね・・・」
「・・・そうか」
そんな空気にノワールがしんみりとした空気を浮かべながらも礼を言い出した事に、比古清十郎も珍しく礼を言って返す。更にノワールはこの関係がそろそろ終わるだろうから言ったことだと感慨深げに言ったことで、比古清十郎は一言で納得して済ませる。



・・・比古清十郎と漆黒の翼の関係はホドの同郷というよしみはあれど、あくまでその関係の根底は馴れ合いなどではなく世界を変える為の協力関係に過ぎないと両者共に納得した関係であった。そしてそれは世界が預言を頼みとしない状況になれば、一種の契約のように切れてしまうものであるとも。

ならばビジネスライクとしてしか交流していなかったのかと言えば、それは否だ。預言嫌いで人付き合いの嫌いな比古清十郎は漆黒の翼の面々は例外として見ていたし、漆黒の翼も同様に比古清十郎を気に入ってはいた。ただ・・・そろそろ道が別たれる時が来たためだ。

おそらく漆黒の翼は世界がまた悪い方向に流れれば、義賊として活動し続けるだろう。それでなくともこれまでの行動から犯罪者として見られている、真っ当な生活はまず出来ないだろう。対して比古清十郎はこれから世界が変わろうが、また人付き合いを避けて陶器を作る浮世離れした生活を続けるつもりでいる。

・・・そんなどこか日の目を浴びないという点では似ている両者ではあっても、陰と陽のように対極に過ごす事になれば必然的に会うことは無くなる・・・そうなると互いに理解しているが故に、両者は機会がない限りはこの夜が最後になると感じていた。



「・・・なんかしんみりしちゃったね。済まないね、センセイ」
「構わん、気疲れもいつの間にか感じんようになったからな」
・・・ノワールはふと感じたのだろう、湿っぽくなっていると。明るく笑みを浮かべるノワールに比古清十郎も微笑で返す。
「それよりお前はもう休め。後数時間もすれば夜も明け良からぬ事を企む者も出てはこんだろう。後は俺とあの二人で十分だ」
「そうはいかないさ。こっちも漆黒の翼のリーダーとして最後まで見届ける義務があるからね・・・それにこんないい女がいるのといないとじゃ、センセイの士気も変わるんじゃないの?」
「ふ・・・構わん、なら好きにしろ」
「そうさせてもらうさ」
それで更に珍しくも気を使い休めと言う比古清十郎だが、どこか挑発するよう自身を覗きこんで艶のある微笑を浮かべるノワールにまた軽い微笑を浮かべ好きにしろと返す・・・大人の男と女の余裕に満ちたやり取り、そしてそれを繰り広げているのは美男美女。端から見ればそれは絵になる以外の何物でもなかった。















・・・そんな血の匂いと大人の色気を多大に匂わすやり取りが入り乱れた夜は過ぎ、朝になった。



「・・・じゃあな」
「えぇ、センセイも達者にね」
酒場の前、ヨークとウルシーを後ろにつけたノワールと比古清十郎は別れの言葉を交わし背を向け歩き出す・・・夜を通して各国の代表を守りきった、その疲れを一切見せず凛とした佇まいのまま・・・






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