時代と焔の守り手は龍の剣 第二十一話

・・・それでピオニー一行が領事館に寄ってから兵士を引き連れ向かったのはケセドニアの代表であり、会談の場所となっているアスターの豪邸であった。



「イヒヒ・・・よくいらっしゃいましたイオン様、ピオニー陛下」
「お久しぶりです、アスター」
「済まんな、世話になるぞ」
・・・質のいい調度品で整えられた邸宅の中、ピオニーとイオンの前でアスターと呼ばれた商人が端から見れば悪人笑いを浮かべながら出迎える。
「まだインゴベルト陛下にトリトハイム詠師がこちらに来たとの報告は入っておりません、しばらくごゆっくりされてください・・・と言いたいところですが、よろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「先頃送られたあの手紙の中身ですが、アクゼリュスの崩落の件に関してはこちらでも噂を聞いて確認をしております・・・それでお二方にだけ先に一つ聞いておきたいのですが、これより行われる会談の中身は世間に公表するのでしょうか?」
「・・・話の流れで言うことになるだろうが、まずそうなることは避けられんと言うより、そうしなければならないとこちらは思っている。そしてそれはキムラスカにもダアトにも了承してもらうつもりだ。だが今全てを言っては二度手間になりかねんから、詳しい話は後にしてくれ」
「イヒヒ、そうですか。わかりました、会談の時までその事は聞かないでおきます」
それでゆっくりと言いつつ質問をするアスターにイオンが何かと聞き、会談の中身は世界に回るのかを慎重に再度問い掛ける。それにピオニーが大きな事があると匂わせつつ後にしろと言ったことで、アスターは独特の笑いを浮かべながら了承をする。
「・・・ちなみに聞くが、お前はこの会談をどう思っている?別に何か政治的な思惑なんかないから、正直に答えてくれ」
「この会談を、ですか?決まっています、このケセドニアを守ると同時に大きく発展させる機会と見ています」
「っ・・・そう、なんですか・・・?」
そんなアスターの姿に正直な感想を言うよう前置きをしてピオニーは問いかけを投げ掛けるが、その答えにイオンは少し動揺したようにアスターを凝視する・・・そんな野心めいた言葉を吐いた平然とした、その姿を。
「えぇ。おそらくこの会談が終わり世界に会談で決まったことが明かされたなら、世界は大きく揺れることになると思われます。そうなればケセドニアもその影響を避けられないかと思われますが、それを上手く乗り越えられれば守るだけでなく更にケセドニアは発展させられると私は思っています。イヒヒ・・・」
「・・・それは自治区の代表としての意見か。まぁ分からんでもないな。少なからず世間が混乱する中で交易の要であるケセドニアがしっかりとしていれば評判もよくなり、人の流れも増えて更なる発展を望めるだろうからな」
「・・・そういうことですか」
だがアスターから返ってきた中身とピオニーの予測に、少し安心したようにイオンは納得した。野心は野心でも至って健全であり、前向きな野心だと。
「まぁそう言うことなら俺も目くじらを立てるわけにはいかんな。ケセドニアの発展はマルクトの国境があることから見ても、望ましい事だ」
「それもそうですね、ふふ・・・」
だからこそピオニーもイオンもそれ以上は何も言わず、イオンに至っては微笑ましげな笑みを浮かべた。



・・・だがイオンは知らなかった、その後の会談でその微笑みが少し悲し気に染まることになることを・・・









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