時代と焔の守り手は龍の剣 第三話

「ですがこの音を聞いて倒れるのは、あくまでも魔物であるグリフィンくらいです。遠くにいる兵士達にはまず効きませんし、今の音で何らかの異常がこの辺りで起こったと神託の盾が来るかもしれません。私は兵士の様子を見つつブリッジに行くルークさん達の進路を援護するよう今みたいに音を鳴らしますので、先に進んで下さい」
「ちょっと待てよ。それって、お前が神託の盾に狙われるからお前が危険なんじゃ・・・?」
だが大抵の魔物相手には有効な龍鳴閃の効果の反面、人間相手ではかなり近い位置にいなければその効果は限りなく薄い。それどころか今のような現状で龍鳴閃を使えばただ敵の的と成り兼ねない、そう聞いてルークはセカンを心配したよう声を上げる。
「大丈夫です。危なくなったら隠れたりしてやり過ごしますので、気にしないで下さい・・・では私は兵士を引き付けます、そちらも気をつけて行動してください」
「・・・わかりました、そちらも気をつけて」
「ジェイド!?」
「・・・では」
‘トンッ・・・タッ’
だがセカンの意志は固い、そう見れる返答にジェイドは眼鏡に手を置きセカンを送り出す。しかし納得しきれてないルークはジェイドに強い戸惑いを見せ、そのルークにセカンは一言だけ別れを述べその場から高く飛び上がり本来歩かないような屋根の部分に着地すると、素早く走り出す。



(出来ればルークさんをあの二人だけにさせたくはないけど、今それより危険なのはラルゴの報告をしようと逃げた兵士が大勢の神託の盾を引き連れて来て、その兵達に囲まれて私達がなぶり殺しにされること・・・それを避けるためには兵力を分散させるくらいしかないから、こんな手段しかなかった・・・)
・・・屋根の上を走りながら、セカンは考えていた。この状況を打破するための最善の手を。そして導き出した結論は大多数の兵士をおびき寄せる囮を自ら勤める事、の訳だが・・・
(けどこの状況じゃいくら私が囮を勤めても、ジェイドさんがタルタロスを諦めてくれなきゃ話にならない。機を見てブリッジにまで行って諦めてもらうよう、説得しないと・・・もしそれがダメだったら、せめてルークさんだけでも連れてタルタロスから脱出を・・・)
そもそも囮というのは何らかの目的が成功することを前提とした、時間稼ぎの手段の一つである。だがセカンはジェイドの目的である‘タルタロスの奪還’をセカン自身の目的としていない。セカンが目的としているのは‘タルタロスの奪還がこの人数では不可能’だとジェイド達に気付いてもらい、早い時間で神託の盾に気取られる前にタルタロスから逃げ出す事だ。
だが今までのジェイドとのやり取りで、自分の考えを取り入れてくれる可能性の方が低いと考えてるセカンはいざという時はルークだけでも助けて逃げだそうと考えた。それがジェイドにティアを見捨てる事になろうとも、とも考えて。
(・・・そろそろ囮として動こう、私も死なない程度に)
そこまで考えセカンは囮に徹しようと、いらぬ思考を頭から追い出しながら刀を抜き・・・走りながら、神速で納刀する。
‘キィィィィンッ!’
「またあの音だ!」
「あの辺りから聞こえたぞ!探せ!あの音が鳴った瞬間グリフィン達が倒れたんだ!あれはマルクトのやったことに違いない!」
(よし、まずは狙い通り・・・)
龍のいななきのような納刀時に発せられた甲高い音が鳴り響き、場にいる神託の盾の兵士達は音源を探し出そうとセカンのいる辺りを指差し一斉に向かって来る。だがそのまま場に留まる気のないセカンは兵の来ないほうを選びつつ、すぐさま場を離れる・・・









・・・セカンの囮活動により神託の盾はしばしの間、てんてこ舞いになりながらもセカンを必死に見つけようと音を追いかけた。だが龍鳴閃で何度も音を出してはうまく逃げていくセカンに躍らされた神託の盾はセカンを見つける事が出来ず、知らず知らずの内に多数の兵がブリッジとは関係ない船室の倉庫の方へと向かってしまった。
(・・・よし、これだけ人目を集めれば十分。そろそろブリッジの方に行こう、ジェイドさんの力なら六神将でも出ない限りはすぐにブリッジは制圧出来るはずだし・・・)
その様子を物影から見ながら、セカンは六神将という不安要素ありと言えど今なら大丈夫だろうとこっそりと隠れながらブリッジに向かう。



(・・・えっ!?)
だがブリッジの入口前に来たセカンは身を隠しながらも、目の前に広がる現状に驚きを禁じ得なかった。何しろそこにあったのは倒れ込むルークとティアに、観念したよう手を上げ降参のポーズを取るジェイドの姿があったのだから。
・・・だがそれ以上に、セカンを驚愕させたのは・・・



(あそこにいる人も、私やルークさんと同じ顔・・・!)








11/19ページ
スキ