時代と焔の守り手は龍の剣 第二十話

「既にお前から話はしていたから普通は予想がつくと思った。最後という言い方を使ったのだからパッセージリングの封呪の解除で私が死んで、もうティアと会えないと言う風に理解してくれると・・・だがティアはそうは取ってくれなかった。自身に対する侮辱への怒りにその事を忘れた形でだ」
「あえて言葉厳しく申し上げますが、彼女は大局を見る目に加え冷静な判断力に柔軟な発想力・・・そして人の言葉を受け入れる寛容さが著しく欠如していると私は感じました。一兵士としての武力だけ見ても後衛としてならともかく、全体的なバランスはいいとはとても言えません。戦場に出れば乱戦になることもしばしばありますから、前衛後衛関係無く接近戦を強いられる状況もあります。激しい戦場であれば尚更です・・・ですがそのような事も理解せず自身の近くに敵が来た時、詠唱中は守ってと苛立ちながら言っていました」
それで先程のやり取りから気付かねばならなかったはずの事を全く気付かなかったティアに残念だとヴァンは呟けば、ジェイドは痛烈に人としてと兵士としての質の悪さを事実も交えぶちまける。
「それは・・・リグレットはそのようなこと、教えるはずがない・・!」
「そうでしょうね。戦いに慣れた者であればそのような事態も覚悟した上で、臨機応変に戦うのが普通のはずです。それを前衛がカバーしきれなかったからと言って文句を言うのは筋違いの上、戦いの中でそういう文句を言うなど本来あるべきではありません。そう叫ぶくらいなら敵に神経を集中し、苦手でも前衛のように戦う方が建設的です。しかし彼女はそれをさも自分には非がないと言った態度を取っていました。周りを見た上で最適の形で援護をするべきなのに、自らには何も非はないと言った様子でです」
「・・・っ・・・そこまで聞くと改めてティアと向き合わなかった事が悔やまれるな・・・」
そんな事実に最初は信じられずにいたヴァンだが、ジェイドが尚もティアの行動の愚かさを語ったことで再度目を伏せ無念そうに表情を歪ませる。



・・・いかに手練れの者でも目の前にいる敵を無造作に放っておいて今にも狙われそうな後衛の為に無防備に身を捨て助けに行くなど出来るはずがない。ましてや距離が開いているなら尚更すぐに助けるのには無理が生じる・・・つまりは状況次第では後衛にも危険があるのは避けられない事は十分に考えられるし、考えて然るべきなのだ。戦場に身を置くのならば。

だがティアは敵が近付いて来たとき自身の詠唱を守れと怒声を上げてきた。それが明らかに前衛にとって不都合な体勢の時であったにも関わらずだ。それなのにまるで自身には非はないという態度を崩そうとしない・・・いや下手をすれば比古清十郎にセカンがおらずルークやガイがライフボトルが必要になるような傷をティアの為に負ったとしても、無茶をするなと自分の為に負った傷ということなど気にすることなく叱責すらしていただろう・・・これは人としても兵士としてもあまりに未熟であり、頑迷さが酷すぎると言えた。



「・・・ですがもうティアの事を気にする必要はありません。もう彼女はグランコクマから出すつもりはありませんからね」
「・・・それはつまり、ティアを殺すという事か」
「・・・そう理解されているのに、延命の嘆願はされないのですか?」
そんな姿にティアの心配はいらないとジェイドが告げるがその裏にある真意を正確に読み取って視線を向けるヴァンに、妹を助けたくないのかと伺うように問う。
「・・・私からそう言ったとてそれが覆ると思えん。それにティアはあまりにも自分のしたことに自分の周りの現状を理解出来ていな過ぎる・・・最早妹可愛さに味方に立つなどという次元ではない上、他の誰でもないティア自身受け止めねばならぬ責任という物があるのだ。今更兄としてなどとはおこがましいが、ここで助けるのではなく突き放すのが兄としてやれる事だと私は思ったのだ」
「・・・そうですか」
その問いにやっても無駄だろうと言いつつ兄としてあえて見捨てると言い切ったヴァンに、ジェイドはただ頷いた。







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