時代と焔の守り手は龍の剣 第十九話

「言いたいことは終わった・・・俺は戻るぞ」
「あぁ」
そんなピオニーにそれ以上何を言うでもなく再度の退出を告げる比古清十郎に、今度は何を聞く事もなくピオニーはその姿を見送った。
「・・・・・・お話はすみましたか?」
「・・・ジェイドか」
そしてその私室から姿が消えた後入れ代わるよう部屋に入ってきたジェイドに、ピオニーは苦笑を浮かべる。
「いやまいった、話は聞いていたがあそこまで歯に衣着せない言い方とは予想していなかった。おかけで少し俺も肝を冷やしたぞ」
「そういう方なんですよ、あの人は。誰よりも強く自分という物を持ち、自分の意志を曲げるという事を知らない。だからこそ一人でも世界に立ち向かおうとすら出来るし、立場など気にせず対等に接してくる・・・」
「で、あの男のおかけでお前も目を覚ましたって訳か。その遠慮も何もない強い意志の言葉でな」
「・・・えぇ。陛下も含めて初めてでしたからね、私の事をあそこまではっきりと愚かと言いきった方は。それにサフィール、いえディストの事をちゃんとアフターケア出来なかったのは私のせいです。これは言い逃れなど到底出来る物ではありません・・・」
「・・・それを言ってしまうと、俺もそうなるんだがな」
そのままに比古清十郎の事を話題に会話をする二人だったが、ジェイドがディストの話題に変えた所で目を伏せピオニーも苦笑が苦そうなだけの顔に変わる。
「だがこれからはディストの身柄はマルクトで拘留する、二度とフォミクリーが悪用されんようにな。それが俺が出来るせめてもの償いだ・・・そしてジェイド、お前もその全てが終わった後の償いの為に罰を受ける気持ちは変わらんのだな?」
「はい、それは・・・その為に今の私は恥を承知でこの場にいるのです、そうでなければとても陛下の前になど顔を出せません」
「・・・本当に変わったな、お前・・・」



・・・ディストが幼なじみだからこそ感じる罪の意識・・・それを皇帝として清算するというピオニーに対し、その意識がピオニーより強いジェイドはそれより重い罰を望んでいる。



自身から出した問いかけに一切ぶれることなく真っ直ぐな視線で曇りなく答えるジェイドに、ピオニーは感心と言うよりは悲嘆に染まった声を上げる。
「・・・まぁいい、とりあえずお前も休んでこい。明日にはローレライの解放が控えているんだ、何が起こるかわからんから休息はちゃんと取っておけ」
「はっ、失礼します」
だがその声色を一瞬で皇帝の威厳を伴わせた物に変える辺りは流石で、ピオニーから発せられた退出の命にジェイドは型にはまった綺麗な敬礼をして私室を後にする。
「・・・・・・思えばジェイドがあのようになったのも、俺が原因なんだろうな」
そしてその姿が私室からなくなった後、再び悲嘆に染まった声と表情でピオニーは呟く。自身の不徳と。
「ネビリム先生に俺にジェイドにサフィールにネフリー・・・ケテルブルクでのあの私塾での皆との時間は本当に楽しかった、今でも思い返す度にそう思う・・・けどネビリム先生がいなくなり、俺達は変わっていった・・・いや、変わったんじゃない。ただ俺達はネフリーを除いて、目をそらし続けたんだ。あの時間が無くなってしまったことを・・・」
今でもピオニーの中に色褪せない思い出として残る幼少の頃の思い出は、確かに素晴らしい物だったとピオニーは胸を張って言える・・・だがピオニーは気付いてしまった、今の自分達はあのネビリムを失った日からその事実に目をそらしながら生きてきたのだと。
「サフィールはネビリム先生を求め、フォミクリー研究に没頭し続けた。それも現実から目をそらした結果だ・・・だが俺にジェイドは計らずもこのグランコクマでそっくりそのまま昔のままと行かずとも、それなりにあの時のような気安い関係の感じでいた。それがいつしか惰性で周りにも広がり、俺もアイツもそんな状態でいるのが当然と言った形で・・・今思えば俺達はネビリム先生との時間を切り捨てることを知らず知らず拒否していたんだろうな、それで本来こう在るべきという形を見失っていた・・・」
・・・そして目をそらしていると気付いたからこそその正体が感傷、それもタチが悪い無自覚の物であったとピオニーは感じた。
「・・・俺は昔のままではいけないと自分を律する必要があったんだろうな、本来皇帝になる前に。そうであればジェイドもおそらく・・・いや、それを言う資格は俺にはないな」
だからこそ無自覚の感傷を断ち切る必要があった、だがそれが出来なかった。もしそうしていれば今ジェイドはもっといい状態にいたのでは・・・そう思いかけたピオニーだが自嘲の笑みを浮かべ止めた、今の状態は自分に責任があると思った為に。






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