時代と焔の守り手は龍の剣

「・・・取り合えず、お前が身分不確かな奴だということはわかった。それで、お前はどうする?」
「え・・・どうする、って?」
そこから考えをまとめた男は子供に質問するが、曖昧に問われたそれに子供は警戒を忘れ問い返す。
「聞いた所お前の親を探すのは俺一人ではまず無理だ、どこから来たかもわからんのでは手掛かりもないに等しい。それでだが、俺にも一応ツテがないわけではない。俺が事情を説明すればお前を引き取ってはくれるだろう知り合いがいる。キムラスカとマルクト、どっちか好きな方を選ばせてやるからどっちに「いやっ、行きたくない!」」
男はその問いに子供の受け入れ先を紹介する事を話し出したが、途端に子供は布団から手を離し頭を抱え悲鳴をあげる。
「私、怖い・・・知らない所に行くの、怖い・・・」
「・・・心配をするな、人柄は俺が保障する・・・っ・・・」
ボソボソと聞こえた明らかな恐怖の声に男は仕方なさそうになだめに入るが、いきなり子供は男に飛びつき胸に顔を埋める。
「嫌です!私を・・・私を、見捨てないで下さい・・・お願い、あなたしか今信じれる人がいないの・・・お願い・・・また私を捨てないで・・・」
「・・・くっ・・・」
そこからまた感情をぶつけた声が男に向けられるが、また・・・そう頭についた言葉を聞いて、男の顔が苦く歪む。



(・・・コイツは言ってしまえば捨てられたばかり。そんな時にいきなり人と離れるような発言をしたのはまずかったか・・・)
・・・男は子供の話からただならぬ物を感じていた、自らの使う剣の理念で立ち向かわねばならないと感じる程の物を。故に子供を安全な場所に送りそれから動こうと考えたのだが、人付合いの悪さが災いしてか段階を踏み子供を安心させずに話に入った事を後悔していた。



「・・・わかった、俺の言い方が悪かった。訂正するから取り合えず顔を上げてくれ」
これがもう少し年齢も高く常識を伴った大人だったなら男もいつもの態度で無下に扱っていただろうが、流石に目の前の弱い子供を押し退けられる程の冷血漢ではない。かと言って自身の身を置く境遇を話して身を引いてもらう訳にもいかないと、違う角度から説得しようと男は涙を浮かべる子供の顔を上げさせる。
「さっきも言ったが俺はここに一人で暮らしている。俺は人を世話をしたこともないし、俺自身やるべき事がある。まともにお前を育ててやれる保障など出来ん。その点俺の知り合いならそのようなことはないだろう。そう聞いても、お前は俺の所にいたいと言うのか?」
「はい!」
「・・・っ!」
自分の所にいても何も保障出来ない。そう口下手なりに優しく言った男に、子供は真っすぐな声と目で肯定を返し男を心情的にたじろがせる。
「・・・いいんだな?」
「はい、構いません!」
それでもと再度確認を取る男に、子供はまた迷いない声で返す。その様子に男も観念したよう、溜息を吐く。
「・・・ふぅ、わかった。そこまで言うなら衣食住に関しては面倒は見てやる。だが俺に愛想をつかしたならいつでも言え、俺よりはマシな知り合いをすぐに紹介してやる」
「っ・・・ありがとうございます!」
精一杯の悪辣を持って子供に男は言うのに、一切嫌がる気を見せずむしろパァッと明るく顔を綻ばせ男に子供は再度抱き着く。
(・・・すぐにコイツも音を上げるだろう。それまでの辛抱だ)
今は記憶喪失になってから初めて親身になってくれた自分を慕っているだけ、自分との共同生活を始めればその気持ちも変わるだろう。そう男は考えていた。



・・・と、ここで男はある考えに行き着く。
「・・・お前、名も覚えていないのか?」
「えっ、あっ・・・はい・・・」
一緒に暮らす上で名前を知るのは不可欠、男は子供に名を聞くが胸から顔を離すと気まずそうに頷く。
「・・・名がないのも不便だな・・・今日からお前はセカンだ、セカンと名乗れ」
その様子に男は自分で考えた、即興ではあるがある想いを込めた名である『セカン』という名を子供に名付ける。
と、子供はまた非常に嬉しそうに顔を綻ばせる。
「セカン・・・セカンですね、はい!・・・あっ、でも貴方の名前は・・・?」
名前をもらって喜色を浮かべていたセカンだが、自分は男の名を知らないと疑問の視線を見せる。
すると男はセカンの肩を掴んで距離を置き、立ち上がりセカンを見下ろす。



「俺の名はカクノシン・ニーツ。だが仕事上、あまり俺を本名で呼ぶ奴はいない。さん付けなり先生なり師匠なり好きに呼べ」







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