時代と焔の守り手は龍の剣 第三話

「・・・あの不用意さと警戒心の無さ・・・導師守護役の子もそうだけど、周りの人達を相当に苦労させてると思う。私がこんなこと言うとややこしくなるから、言えないけど・・・」
そんなものだからイオンの周りにある人物達の苦労の姿が目に浮かぶと、セカンは疲れたような声を搾り出す。
「・・・もう考えるのよそう。正直考えても仕方ないし、カイツールを少し越えたらもう別れるんだし・・・ルークさん達の所に行こう」
しかしそれをじっくり考えてもイオンとこれ以上関わらないだろうセカン自身には関係ないと、その思考を放棄しセカンは部屋を出る。



「あ・・・ルークさんにティアさん。それにアニスさん、でいいかしら?」
「あ、大佐が言ってた人って貴女なんですかぁ?初めましてぇ、アニスでーす♪」
「あ、ど、どうも・・・セカンです・・・」
すると部屋を出た瞬間セカンは右側から来るルーク達三人を見て初対面のアニスに向け挨拶するが、クネクネとした動きを見せ明らかに上機嫌なブリブリの声で返されセカンは一歩引いてしまう。
「えーっと、セカンさんの親って世界中の貴族の間で凄く気に入られてる陶器を作ってる人なんですよね?よかったらアニスもお近づきの証にその陶器が欲しいなぁ~、なんて♪」
「っ・・・言ってはみますけど、多分断られると思いますよ。師匠は納得いく作品でなければ売りには出しませんし、同時に人に譲る事もしませんから」
「ぶ~っ。ケチ~」
その一歩引いたセカンにアニスは明らかに比古清十郎の陶器が欲しいと媚びた声を出す。そんなアニスを見てセカンは誰にも感づかれない一瞬の溜めの後、やんわり断りを入れアニスのブーイングをもらう。



(これだけ露骨な媚びを売る人もいなかったな、それに媚びを売る諦めの早さも早さだけど・・・こういう言い方をするのは嫌だけど、まだ遠回しな表現で師匠の陶器を相場より安く買おうとしてる人の方がマシに思える・・・)
セカンが陶器が欲しいと言われ少し間を空けた理由、それはアニスに対し多少なりともの嫌悪感を抱いた為である。
・・・比古清十郎の陶器の価値を知っている人間は多い、それこそ色々な手管を用いてその陶器による儲けをどうにか独占なりより高い値段で転売するなどのやり方を何人もの悪徳商人が比古清十郎に遠回しに提案してきた。
まぁそんな人物達の狙いなど比古清十郎は一蹴して来た訳で、セカンもそんな様子を見てきたのだ。大方媚びを売ってるか、裏があるかどうかも大体セカンにもわかる。だがアニス程露骨に雑な媚び売りはセカンは見たことはなかった、誰が見てもわかるほどの媚び売りは。
(・・・師匠にはあまり会わせたくないな。途端に不機嫌になる様子が完璧に浮かんじゃうから・・・それに下手に約束を取り付けたら取り付けたで、後が結構しつこそうというか・・・そんな感じがするし)
そしてそんな様子だからこそ、セカンは釘を刺そうと思ったのだ。タルタロスがどこまで自分の目的地である小屋に近付いてくれるかは知らないが、もし少し立ち寄ろうかなどとなった時すぐに媚びを売るアニスの姿とその姿にしかめっつらを浮かべる比古清十郎の姿が。
よしんば寄らないなどという事態になっても媚びを売られ続けるのは自分、故にセカンは望みがないことを告げたのだ。自分の為にも。



「ハハ・・・まぁ陶器の事はともかくとして、少しの間だけですがよろしくお願いします」
しかしそんな内心などおくびにも出さず、乾いた笑い声を出すとセカンは礼儀正しく頭を下げる。






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