時代と焔の守り手は龍の剣 第十七話

「・・・俺も出来りゃアイツに対してキツいことなんてしたくなかった。けど俺ははっきりとアイツを否定しちまった、アッシュの記憶の事を口にされて頭にきちまったってのがあったけどさ・・・」
「記憶、ですね」
「多分だけど俺はお前達から話を聞いてなかったら自分は偽者ってことで気持ちの整理がつかないまま、ズルズルいってたと思う・・・けど話をした上でアイツの言ったことは記憶、その一点張りだった。だから思ったんだよ・・・アイツにとって記憶があって優しいのがアイツにとっての『ルーク』なのかってな・・・」
「・・・ルークさんがそう思うのも間違いではないと思います。でも、だからこそ辛くもあるんですよね?・・・自分は本物じゃない、っていう気持ちがあるから」
「あぁ・・・」
・・・紛れない怒り、そして苦悩。二つのジレンマに挟まれていると明かすルークに違うが同じでもあるセカンも気持ちを分かるが故に辛そうに声をかける。



・・・ルークも自身が本物ではない事に苦悩していた、それは間違いない事である。事実ナタリアに対しそれを言わない、いや言えない事に申し訳ない気持ちは確かにあった。だがそれでも、ルークはそれらを乗り越え例え自分が偽者であろうと『ルーク』として生きていくと決心をしたのだ。世界の為にも、と。

しかしナタリアは全く我が身を振り返ることなく、ただキムラスカに在りし日のアッシュの幻覚だけを求め続けた。それは極端に言ってみれば『優しくなく記憶のない貴方の方が悪い』と、自らの意識を改革させたルークに対する逆ギレにすら等しい行動だった。更に求めるだけ求め、何もルークに対し返そうとしないナタリアに何故ルークが同情しなければならない?ルークの怒りも必然と言えるだろう。

・・・だがそれでも実年齢7歳というルークに閉鎖された環境で数少なく得られた知己を、自らの頭の中で無情に全て切り捨てるのにはあまりにも経験が少なすぎた。



「・・・笑っちまうよな、全部決めたはずなのにいざ行動したら後悔しちまうなんてよ・・・っ!」
「ルークさん・・・え、師匠・・・?」
様々な考えに思いが交錯し・・・ルークの瞳から涙が零れていた、必死に泣くことを我慢しくしゃくしゃに歪んだその顔から。セカンもその姿につられて表情が歪むが、そこに比古清十郎がルークの前におもむろに近付いて立つ。そして・・・
‘ポン’
「え・・・?」
「・・・我慢するな、ガキが」
頭に手を置き、ぶっきらぼうに気遣いの言葉をかけた。
「この世に絶対の正義なんざない、正義の定義なんざ人により違う。そして誰もが傷付かず誰にも優しい正義なんざ存在しない・・・預言もだが、俺達のやっていることもだ。だがそれを理解出来ている奴などそうそういやしない、お前みたいなガキなら尚更だ。だがお前はそれを知った・・・同情はせん、だがガキが必要以上に我慢をするな。見ていてイライラする・・・泣くなら遠慮せず泣け、男に抱き着かれる趣味はないがガキなら別だ」
「っ!・・・っく、ひくっ・・・うわぁぁぁっ・・・・・・っ!」
・・・けして素直ではない、だが確かな優しさがそこにあった。
自らの持論を述べ上げ頭を胸に引き寄せた比古清十郎の行為に、ルークは我慢することをやめ服を掴みながら泣いた。納得した上で怒りがあったからとは言えナタリアを自身で排除したことへの後悔に・・・










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