時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「という訳ですので・・・陛下、余り迂闊な行動は取られない方がよろしいですよ。あえてまだ我々と敵対したいというのであれば、それらの風評が広がるのと同時に貴殿方に龍の剣が突き立てられる事になりますから」
「龍の、剣・・・?」
そのインゴベルトに一通り脅しを入れた所で、今度は比喩を持ってジェイドは比古清十郎の事を持ち出す。だが比古清十郎の事を指されてると知らないインゴベルトは首を傾げるが、瞬く間に・・・
「・・・ヒィッ!?」
比古清十郎は殺気を込めた鬼の形相で間を詰め刀を首筋近くに向け抜いて、インゴベルトはその状態に気付いた瞬間恐怖に顔を歪め体を硬直させた。
「・・・それが龍の剣です、陛下。貴殿方の行動でマルクトが相手になるだけでなくその剣はキムラスカに向けられることとなるでしょう、それこそキムラスカが滅びる事になろうと・・・ね」
「っ・・・!」
そのままにジェイドは比古清十郎の存在を更に強調するよう、敵対した場合に比古清十郎もキムラスカを滅ぼす敵になると告げる。



・・・あえてここで比古清十郎を出す意味はなかった。ジェイドの弁だけでも十分にインゴベルトを黙らせる事が出来たのだから。

だがそれでも比古清十郎の名を出し比古清十郎が行動した理由とは、当の本人が自分の存在もアピールすることを自発的に決めたからだ。

そもそもからして誰の手も借りずして動こうとした身であるが、マルクトに協力してもらってありがたく思ってはいるもののおんぶにだっこばかりでは比古清十郎が納得がいくものではない。

だからこそ自分も矢面に立たせる為、自分の存在を印象付けるためにジェイドにその機を用意させたのだ。いざというとき、自分もキムラスカと戦うと理解させるために・・・



「・・・では行きましょう。これ以上は陛下も何もされないでしょうから」
「あぁ」
「では夜分遅く失礼しました、陛下」
「っ・・・!」
・・・最後に比古清十郎の存在を認知させることにも、成功した。これで余程でなければキムラスカは敵には回らないだろう、そんな状態を見て比古清十郎に声をかけつつジェイドはインゴベルトに声をかけ頭を下げる。しかし最後の比古清十郎が余程強烈だったのか刀を納めてシンクにジェイドと共に退出する姿を、インゴベルトは怯えた瞳を浮かべるだけで何も言うことが出来ず見つめ続けるばかりであった・・・












・・・そしてインゴベルトの私室を出て、3人は自分達にあてがわれた部屋へと戻った。尚、自分達を襲ってきた兵士など気にするでもなく視界の片隅において部屋の中央で雑談を交わしている。
「ねぇ、ルークに選ばせる気はないの?一応言ったじゃないか、ナタリアをどうするかを選ばせるみたいなこと言ってたけど」
「・・・まぁ本当なら、そのつもりだったんですけどね」
そこで聞いてなかったと言わんばかりのシンクに、ジェイドは疲れたような声で答える。
「彼女の事は先程のやり取りで貴方も見たでしょうが、王女であることを当然としたあの方はそれを失う事を恐れその地位に固執するでしょう。そのような方がもしルークとどうやってでも婚約を保持しようとしたなら、ルークが情けを覚えたなり脅されたりなどしてナタリアに屈する可能性が出てきます。そうなればいずれ彼女は自身の立場が安定したものとして安心し、反省をしないままに以前のままの彼女に戻りかねませんからね。そうなれば我々にとっても迷惑ですが、いずれ結婚をすることになるルークが一番迷惑を被る事になるでしょう。そう考えれば初めからルークには断る事を前提にナタリアと会っていただいた方がいいと私は考えたのですよ」
「・・・だろうね。あの女の話聞いてたらほっといたらいずれまた暴走は間違いなくするっぽいし、ならいっそここらで引導を渡しておいた方が後々の為になると僕も思うよ」
その声色のままに詳しく訳を説明するジェイドに、シンクも反論など出てこず同意を返す。











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