時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「事実を明かしたなら同情の視線はナタリア殿下にも向けられるでしょう。しかし同時に貴族及び一部の民はこうも思うでしょう、預言に詠まれたとは言えナタリア殿下は結局は偽者なのだから王族から外すべきと。そうなればナタリア殿下の処置は多少厄介な物へと変わりますが、それ以上に殿下には迂闊な発言をさせないように釘を刺すことが出来ます。下手な発言をしたら庇いだてすることも出来ずに処置をすることになる、と」
「成程・・・」
「そう殿下に肝に命じてもらったなら、殿下に陛下がこう言われればよろしいかと思われます。すり替えの件に関しては殿下に責はないが、王女らしからぬ行動を取ったことに代わりはない。故に王女としての地位を剥奪の上でせめてもの情けとして、離宮で生涯を過ごせと」
「それは・・・つまり、ナタリアを軟禁せよというのか?」
「言い方はよろしくはありませんがそうなります。ですがその扱いに難しい立ち位置と取った行動を思い返せば、その辺りが妥当かと思われます。大詠師に謀られたとは言え殿下として慕う方もおられるでしょうが、事実を知りここぞとばかりに殿下を責める方もおられるでしょう。そのような時に皆が求められるのは全てを決断された陛下のお言葉でしょうが、どちらかの側に立った意見を通せば相当な角が立つのは容易に想像がつきます。ならばとせめてもの折衷案として私は全ての権限を剥奪の上で生かして差し上げるのが、一番角が立たない処置かと思われます」
「・・・確かに頷けるな。ナタリアに対して下手に厳しい処置を施しても甘い処置を施しても問題になるのは目に見えている。そう考えればそなたの案が最も妥当であろう、ナタリアの勝手な行動を防ぐ意味合いを含めるのもだが・・・ナタリアを守る為にも、な」
・・・感情と理屈。巧みに二つを組み合わせた弁論を操るジェイドのナタリアを王女廃嫡させるための弁論に、インゴベルトは苦々しげながらも道理が通り最低限だがナタリアを助けられる事があり否定の言葉を返すことが出来なかった。



・・・ナタリアを擁護するような気はジェイドには更々ない。なら何故逃げ場を与えず徹底的に潰さないのかと言えば、生かしておいた方が戦争抑止の為になり得るからである。ここでナタリアを過去の者としてしまえば、キムラスカはアキレス腱とも呼べる痛い所を失い却ってマルクトに堂々と戦争をふっかけかねなくなる。

故にジェイドは誘導しているのだ、ナタリアを完全に殺しきる訳でもなくかつ生かす訳でもない生き地獄にインゴベルトを誘導させるために・・・



「・・・ですがそれも全て、時期が肝要になります。もし陛下が我々を尚謀殺しようとしたなら、ピオニー陛下と導師イオンにより殿下の事実は白日の元にさらされるでしょうね」
「・・・っ!」
苦々しげなインゴベルトにジェイドが再度余計な事をしないように釘を刺せば、苦々しかった表情がジェイドの方を見てひきつって固まる。
「その上でナタリア殿下には婚約解消の折からバチカルに戻っていただいた後は、陛下より殿下にお話をしていただき公の場より撤退していただいた方がよろしいでしょう。それからですね、導師の名の下でナタリア殿下の事実を明かすのは」
「・・・それでモースに全て、責をなすりつけるという訳か」
「これは人聞きの悪い。大詠師が両国に対して陰謀を抱き自らに都合の悪い物を消そうとしていたのは陛下もご承知でしょう。マルクトはあくまでその事実を公にしようというだけで、なすりつけるつもりなどとてもございません。まぁキムラスカが大詠師の口車に率先して乗っていた、というのであれば浴びる批難の対象は増えることになるでしょうね」
「・・・っ!」
そしてこれこそがジェイドの真骨頂と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべつつの脅迫に、インゴベルトは呆然として言葉を失い下を見てうつむく以外に出来なかった。











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