時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「よろしいですか、陛下?」
「・・・うむ、何だ?」
「陛下が殿下の事を預言の事実を知られても実の娘として見られている事は、大変よろしいことかと思われます。ですがこれは、言わせていただきます」



「先程は我々を襲ったならと言いましたが遅かれ早かれ・・・殿下のすり替えの件は公表します」



「なっ!?」
・・・そのジェイドのインゴベルトのナタリアを守る口実を与えないだめ押しとは、是非もなくすり替えの件の公表。インゴベルトはジェイドのまさかの声に絶句し、目を見開く。
「・・・そ、そなた・・・何故、そのようなことを・・・!?」
「(・・・殿下に失望し情けをかける気持ちがなくなった、と馬鹿正直に言う気は無いので向こうにもメリットのある処置にしますか)・・・マルクトにとってもですが、キムラスカにも殿下にも益があるからです」
「キムラスカ、にも?」
かろうじて言葉を紡ぐインゴベルトに内心での自身の判断をおくびにも出さず、ジェイドはそのとっさに考えついた益について語り出す。
「こう言ってはなんですが、ダアト・・・とは言っても大詠師になりますが、キムラスカもマルクトも共に翻弄された形になります。そんな現状でただ不利益をもたらされた我々ですが、それらの所業を大詠師に全て被っていただけたなら国に対する民の見る目は変わるでしょう。マルクトで言うならタルタロスの件に和平妨害の件で、キムラスカで言うならナタリア殿下の件で同情的な視線にです。特にナタリア殿下に関しては事が事ですので、キムラスカには相当強い同情が集まるでしょう」
「・・・成程・・・確かにナタリアの事を言えば民は我々を被害者と見るだろうな。それにモースは既にいないことから、うまく行けばダアトと重大な外交問題にせずに出来そうだな・・・」
「えぇまぁ。それにこう言うことを言ってはなんですが死人に口はありませんし、話を聞けば大詠師がキムラスカにもマルクトにも害を与えた黒幕という事ですからね。事実と相まって大詠師が殺されたのは多方面から恨みを買うような人物と見られ、負の感情は大詠師に向くでしょう」
「・・・むぅ・・・」
その益とは都合の悪い物全てをモースに押しつけるという物。さりげに自身らはモース殺しには関係無いと含めつつ言えば、得が大きいのもありインゴベルトは唸る以外に出来ない。
「・・・その上でこれが最も重要になる益かと思われますが、この事実を明かすことによりナタリア殿下を黙らせる事も容易になることが上げられます」
「!?ナタリアを、黙らせるだと・・・!?」
「はい、先程の反応を思い返していただきたい。殿下はこう言われましたね?『王女でなくなるのが嫌だ』、と。陛下も聞かれたはずですがいかがでしょうか?」
「う、うむ・・・確かに私もそう聞いたが・・・それがなんだというのだ・・・?」
「こう言っては人聞きが悪いでしょうが、私はその言葉をお聞きしこう思いました。殿下は犯した行動の責任を取る気がなく、ただ王女であることを優先する方なのだと」
「!それ、は・・・」
そしてそのままに最大の狙いでもあり、利益でもある・・・ナタリア封殺の為の論理に持ち込むジェイドは、先程のやり取りを引き合いに出しインゴベルトに『ナタリアは地位が大事』なのだと自身は感じたと植え付ける。
「また言葉を飾らずに言いますが、このまま妥当な処分を申し上げたとしても素直に殿下が受け入れる事は有り得ないかと思われます。陛下もいきなりの事で殿下の事を割り切れずにいる中、殿下もまた陛下の事を割り切る事は出来ないかと。おそらく殿下はその情に訴える形で異論を訴えてくるでしょう、罰などそっちのけの形で」
「・・・否定、出来んな・・・」
「その時は陛下も少なからず情にほだされる可能性も出てくるでしょう。陛下も一人の親として殿下を育てられた身です、それは否定出来ないかと・・・しかし事実を明かした場合はそのような懸念はなくなります」
その上で事実を明かさなかった場合情で罪をどうにか撤回を迫るだろうナタリアの姿を予見するかのよう口にするジェイドにインゴベルトも力なくうなだれるが、明かした場合の利点を更に上げていく。







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