時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「まず1つ目ですが、ルーク殿の身柄を今年が終わるまで我々マルクトが預からせていただくことです」
「っ!・・・それは、もしもを考えての人質か・・・」
「言い方は悪いですが、そうなります。とは言えルーク殿には不都合をさせることなくピオニー陛下と同等にもてなしますので、その辺りはご安心ください・・・それにもし預言を無事に為したとてルーク殿の命が失われた時に誰がキムラスカの王位を継ぐべきか、という事を陛下も考えられなかった訳ではないでしょう?」
「ぐっ・・・!」
最初にジェイドが出した条件とはルークをマルクトで保護すること。その狙いが預言を実行に移させない事だとインゴベルトは瞬時に気付くが、ジェイドはキムラスカ内部の痛い事情を突き反論をさせずに後に続いただろう言葉を潰す。



・・・キムラスカで王族の血を引いている人間は表向きにはルークにファブレ公爵にシュザンヌ公爵夫人にインゴベルトにナタリアの5名しかいない。しかしその内の3人はルークとナタリアの親世代という事もあり、残るルークとナタリア以外には実質次代のキムラスカ王にはなれるはずもない。

しかしここでややこしい問題が発生している。それはナタリアが偽者という点である。ナタリアが偽者である以上王族の血を引いてるはずもなく、それは同時にルーク以外には正統にキムラスカ王にはなれないことを示す。言い方は悪いが所詮ナタリアは偽者、アッシュという本物から造られたルークにはれっきとした王族の血脈が流れているのだから。

だがここでルークを殺してしまったならキムラスカの王族の血はどうなるか?・・・女性として体が弱く子供を産むには高齢と言わざるを得ないシュザンヌに新たに子供を産んでもらうのは、子供にも母体にも負担がかかりすぎて最悪の状態を招きかねない。かといって残りの男性二人はインゴベルトは女王に先立たれたとは言え既婚者であり王族なので、今更新たに適当な女性を妊娠させ王族の血を引いた子を産ませたなら風評被害及び育成の手間に時間がかかってしまう。スキャンダルを起こしてしまえばいくら跡取りを作るためとは言え王族を民や貴族が軽視しかねないし、今から子供を作っても使い物になるのはどう早くても十数年はかかる。

・・・つまりは敢えてルークを殺す事により得られる益など預言による言葉面だけ取った繁栄だけであり、その実は数十年経てば第七譜石に詠まれた預言のこともありキムラスカの王族の血脈の流れは非常に途絶える危険が高くなるのだ。インゴベルト側に第七譜石の情報がないとは言え、流石にその事には気付いていたのだろう。ただ預言によりルークを犠牲にすれば繁栄が訪れると、その事実から目を背ける形で。



・・・ジェイドはそのキムラスカにとって痛すぎる事実を突き付け、例えマルクトの思う壺となるとは言え従わざるを得ない段階の状態を作り出した。
「陛下も理解していただいているようで何よりです。それでは2つ目です」
だからこそ次の段階を踏むため、ジェイドは条件の2つ目を口にする・・・そしてそれは、ナタリアにとって究極の恐怖が宿った条件でもあった。



「これはルーク殿の意志に委ねられる物になりますが、ナタリア殿下との婚約をどうするかを見直させてはいただけませんか?」










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