時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「「っ!?」」
・・・そう、予想外の反論とはマルクトがその事実を知っているという事実。ジェイドがハッキリと口にした言葉にインゴベルトもナタリアも何事かと信じられず驚愕に目を揺らす。
「陛下、そもそもの大元をお忘れですか?その事実を明かしたのは大詠師ではありますが、その事態を引き起こした大元の原因は預言です。つまりはダアトにその事実を知る者は大詠師以外にいても、おかしくはないと思いませんか?ダアトは預言を詠む大元であり実行するための組織と言っていいですから、大詠師が誰かに漏らしていてもおかしくはないという可能性があるとは思えませんか?」
「そ、それは・・・だがその情報を、そなた達は何故・・・っ!?」
「どうやらお気付きになられたようですね」
そのままに自分達が何故それを知ったのかという理由を考えさせる問いを投げ掛られインゴベルトはオロオロと視線をさ迷わせるが、ジェイドの後ろにいたシンクを見て視線が止まり停止したことにジェイドは人の悪い笑みを浮かべる。
「我々も彼にディストから色々お話を聞かせていただきました・・・その中にナタリア殿下の事も、ございました」
「・・・ちょっと待って、くれませんか・・・ならば何故貴殿方はそれを今になって、そんなことをおっしゃるのですか・・・?」
そこから有利に話を進めようとした所に、ナタリアが力なくも非難めかせた声を向ける。
「我々としてもあまり現実味のない突拍子な話だった上、彼らも聞いた話でしかないと言われましたからね。そんな確実性のない話を殿下に無闇にお話して混乱させてはいけないと思ったんです・・・ただそれが真実であった場合を考慮し、手を打たせてはいただきましたがね」
「っ!?」
そんな様子にあくまで優しそうに聞こえる形で慎重を期していたと語るジェイドだが、慎重故にキムラスカを追い詰める事も視野に入れていたと鋭くインゴベルトを射抜くよう見た事で体をビクッとさせる。
「ピオニー陛下にはもしこのバチカルに行った後我々が消息を絶ったならナタリア殿下の事を事実とし、イオン様の名の元で公表していただくよう手紙を送りました。ここで我々を殺せばその事実も付随して世界に公表されます・・・そうなればキムラスカ及びダアトの預言を遵守する者達は戦争をするどころの話ではなくなるでしょうね。何せ預言が引き起こした国を揺るがす最大のスキャンダルですから、民に貴族達はどういう事だと揺れるでしょう。そうなれば戦争を望んだとてまず下は納得しない上に、相手がすり代わる可能性すら有り得ますよ。そんなスキャンダルを掴んだマルクトを相手にするより、スキャンダルの元を作ったダアトと事を構えるべきだとね」
「!?なん、だと・・・!?」
「無論、これはあくまで最悪の場合です。現実には導師がそう言ってしまえば陣営の対立問題があるため、そうそうは戦争にはならないでしょう。しかし印象が確実に悪くなるのはダアトと我々を殺したキムラスカであり、マルクトは逆恨みでもする者でない限りは印象は良くなるでしょう・・・お分かりですか、陛下?陛下が我々を殺せば得られる代償など、たかが知れた物にしかならず払う代償は容易に手に入れた物を遥かに越えた物にしかならないんですよ」
「・・・っ!」



・・・役者、というよりは人間としての造りが違うにも程があると言える。もしもを仮定して語るシミュレーションには穴など見えるはずもない、ジェイドは分かりやすく自分達マルクトを被害者と言える立場をゲットした上で加害者にしか見えないキムラスカにダアトの事を話しているのだから。



ジェイドの自身の安全を確保しつつ語る抜け目ない策謀にインゴベルトは戦慄し、声が出せずに絶句した・・・最早詰みとしか言えないのではないか、という今の状況に。







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