時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「それでナタリア殿下と共にこのバチカルに参った次第です」
「お父様、カーティス大佐の申した通りアクゼリュスの救援はなりました。これで和平は無事に締結されますでしょう?」
「・・・その前に聞くが、何故ルークは戻ってきてないのだ?」
「ルーク殿はアクゼリュスに蔓延る障気を受けたことにより大事を取ってグランコクマにて、休養していただいています。そちらにとっても大事なお方という事は重々承知しておりますので、念のためにと思いましてね」
「「・・・っ!」」
そのまま話を進めナタリアも自然とジェイドを擁護する中、ルークは近くにはいないと裏の意味を含ませたジェイドの返答に二人の顔が歪みかける。だがそれも一瞬の間だけで元に戻り、今度は公爵が口を開く。
「・・・では導師にガイ達も共にグランコクマにいると?」
「えぇ。とは言え導師は神託の盾により誘拐されていた身でたまたまこちらで救出したものですから、再びさらわれないよう安全を期した上でルーク殿と同じようにグランコクマで護衛しております。もしや導師に何か?」
「いえ、この情報は貴方もご存知でしょうが大詠師がケセドニアにて殺されたこと・・・その事についていかがしたものかとお聞きしたかったのですが」
そこからイオンが問題かと言えばモースに話題を転換してきた公爵だが、その目は隙を見逃さないよう鋭い力がある。
「大詠師・・・私もケセドニアにいるときにその訃報をお聞きしましたわ。確かマルクト側の宿にて首をはねられ殺されたと・・・私はその場にいたわけではありませんが、そうお聞きしました」
「我々もその話はケセドニアに寄った折にお聞きしました。話によればその時ケセドニアで賊が出たという話を。恐らくはその賊の仕業かと思われますが、導師の耳にもその事は届いているでしょう。ですので推測になりますが近々ピオニー陛下は導師をダアトにお戻しになられると思われます。いくら神託の盾の行動に不安があるとは言え導師はイオン様だけですから、ダアトの混乱をマルクトの思惑だけで高めさせるわけにはいきませんのでね」
「っ・・・そうか」
そんな様子など露知らずナタリアが当時の事を思い出しながら話す形に乗ったジェイドは全く不自然な所を見せず、マルクトとダアトの両者側の立場に立った発言で返し公爵をなんとも言えない様子にさせて一蹴させた。



・・・モースを殺したのはマルクトの人間、なんて物的証拠などどこにもない。あるのは精々状況証拠程度で、それは犯人だと突き詰める決定的材料になど結局なりはしないのだ。いくら怪しいと声高に言ったとしても。

それに元を返せば元々モースとキムラスカの繋がりはあくまでも裏の見えない部分で、しかもごく一部の人間以外にしかないか細い繋がりでしかない。そんな裏の繋がりしかないモースの死の真実を確固たる証拠もないのにさも味方のようにしながら反論するなど、インゴベルトにファブレ公爵は言えるはずもなかった。下手をすれば裏の繋がりを露呈する可能性があったため。

ただそれでもイオンをずっと帰さないなどと言えばそれはどうかとファブレ公爵も言えただろうが、ジェイドは近い内にピオニーが帰すだろうと言った。そう言われてしまえば他国の人間でしかない公爵がピオニーを貶めるような発言を出来るはずもなかった、他国が妥当と言えるような行動を外から貶めるなど。



・・・ここまでは表向きな理由として非難をされるような謂れはないから、ジェイドの弁論は成功と言えるだろう。だが重要なのはここからであると、ジェイドは更に話を続ける。








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