時代と焔の守り手は龍の剣 第十六話

「っ!・・・成程、ナタリア様ですか・・・そうですね、あの方がいることをすっかり忘れていました・・・」
「えっ?えっ・・・?・・・なんでナタリアが必要なんだ・・・?」
・・・比古清十郎の出したナタリアという名に言いたいことを察したジェイドは表情を明るくするが、対称的にルークはわからないと二人の顔を交互に見やる。その様子にジェイドが説明を始める。
「1つ聞きますが貴方はナタリア様が預言だからと言って貴方を殺すことに賛成すると思いますか?」
「あ・・・いや、そうは思えねぇ・・・」
「でしょう。ナタリア様の行動から見ても滅ぶとなったアクゼリュスにわざわざ行くのは自殺志願でもない限り、まず預言を知っているとは思えません。そしてそれをインゴベルト陛下も承知しているでしょう・・・そこで聞きますが我々がアクゼリュスを救ったと彼女に言い、共にある現状でバチカルに行ったならインゴベルト陛下はすぐさま我々を害せると思いますか?」
「!まさかナタリアを人質に・・・っ!」
「言い方は悪いですが、そうです。これ程最適な人質はありません」
順を追い出てきた言葉にルークはナタリアを人質にすると察し驚愕の目を向けるが、一切ジェイドは揺るがない。
「はっきり言えば敵地に乗り込むわけですからね、我々は。そんな場に無策で行くわけにもいかないでしょう」
「・・・だからナタリアをそうする、のか・・・」
「・・・反対しないのですか?」
「・・・したくても出来ねぇんだよ、ナタリアの事も聞いちまったし・・・・・・それに、アッシュの事もあるから」
「アッシュ、ですか?」
尚もただ最適な手を打つ倫理を敢えて無視した声にルークは反論はしないものの、なんとも言えない強いて言うなら苦しげな表情になりアッシュと口にする。その単語にジェイドだけでなく比古清十郎達も意外そうに目を見開く。
「・・・考えたんだよ、俺。ナタリアは俺が『ルーク』としてファブレに来た時、記憶がないって純粋に悲しんでくれた一人だった。けど今思い返したらそれは、『本当のルーク』の記憶を持たないからだったんじゃないかってさ・・・いつもいつも会えば言ってくる言葉は約束は思い出したか、そればっかりだった・・・そりゃ俺だって思い出したかった、けど出てきた結論は俺が偽者っていう事実だった・・・」
「「「「・・・」」」」
その表情のまま自身の心の内にある不安のこもった想いを吐露していくルークに、周りは余計な口は挟まない。
「・・・俺ナタリアとさ、どう接していいかわかんねーんだよ。事実知っちまってさ、今までと同じように出来ると思えねぇ。それに会ったら会ったでポロッと言っちまいそうなんだ、お前の望む本物はアッシュなんだって・・・言っちゃいけないってわかっててな。でもそれを言ってナタリアに拒否されたくないって気持ちもあんだよ・・・本音を言うならナタリアに会いたくない、でもそんなこと言っても話が通んないってのもわかる。だから何にも言えねぇんだ・・・」
「「「「・・・」」」」
・・・自分の中にある相反する平和に通ずる理屈と自分の感情を抑えきれるか不安だという気持ち、そんな自身の苦悩を精一杯に言葉足らずながらもルークはうつむき明かせば一同は簡単には何も言えずに沈黙した。







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