「それに、だ。両親の事だけを悪いみたいに言っても結局アニスとやら自体がスパイをやっていた、つまり貴殿を裏切っていた事実に変わりはない。その事に周りの目が同情に向くなど、可能性は相当に低いと思うがな」
「な、何故ですか・・・！？」
「なんだかんだ事情があったとは言いつつも、その気になれば秘密にでも貴殿もしくは詠師クラスの誰かに話をする機会はあったはずだ。しかし話を聞く限りそう言った素振りは一切なかった、そうだな？」
「はい・・・」
「そんな自身の状況を打破しようとしなかったヤツに信じるべき材料があると思うか？ただ使われるだけ使われ元々の原因である自身の両親の愚かさを糺せも出来ないでスパイに身を甘んじ、どうなるかを想像が出来なかった訳でもなかろうに他国に被害を与えるまでに至った・・・そんな何もせず精力的にスパイをしてたってヤツに同情が来ると思うか？」
「・・・っ！」
そして当のアニス本人もただですむはずがないとピオニーがつらつらと上げていけば、イオンは辛そうにまた顔を歪めながらもまた反論のために口を開く。
「それは・・・僕が何とか言えば・・・」
「そうすればオリバー達とやらが一層そしりを受けるぞ」
「えっ・・・！？」
「それだけじゃない、そうすればアニスとやらに果ては貴殿までもがそしりを受ける事になるだろうな」
「！？」
だがそれすらも見越した冷静な自身までもとまとめられた答えがただ淡々と返され、イオンは言葉をなくした。
「両親はかばえない、それは先程からよくわかっただろう。だがアニスとやらをかばえばかばうほど両親の立場はまずいものになるぞ、何しろ導師直々にスパイをやっていた者を擁護するのだからな。そうなれば矛先は娘にそこまでさせたのかと両親に向く、より一層の悪役となるようにな・・・だが物事はそう単純ではない。アニスとやらを擁護して仕方ない仕方ないと連呼すればさしもの導師をトップに据えるダアトと言えど、二人にも批判の声は来るぞ。アニスとやらはスパイをしながらも一切罰を与えられないと言われ、導師はただ許してくれと言うばかり。そうなれば公然たる職権濫用として見られるだろう。最悪二人の関係を娼婦を雇う上司とすら言う者がいるだろうな」
「！・・・そんな・・・そこまで・・・言われるなんて・・・」
そしてその根拠を整然と辛辣だが確かに語れば、イオンは最後の言葉が効いたのか呆然と視点を定められずに独り呟く。



・・・誰かを立てれば当然、そのしわ寄せは誰かに回るもの。だが誰もかれもを立てようとすれば、当然それだけの無理が生じてくる。それが考えなしの行動なら尚更だ。

ピオニーが今言ったように話の中で一番立場がまずいのはアニスの両親達で、それでいて平等にタトリン家を助けたいのならまず優先すべきはその両親達だ。安定しない物は安定した環境に放り込んでも安定しないままなのだから。

だがイオンはただ自身の感情のままアニスを優先した、それは言ってみれば自ら滅びを招くような物だ。私情に私情を重ねたとして、守るものを自ら攻めの手にさらすものとして。

・・・アニスを罰も与えずほっぽり続ければ、それこそピオニーの言ったよう愛人もしくは娼婦のような関係として見られる可能性が高い。あれはそんな深い関係性だからこそ守られてるのだと。その上両親まで守るとなれば一層だ、いよいよ自分の為に結婚すら持ち出し私利私欲を押し通すと見られる可能性が高い。と言うよりはそう言った気運にしかならないとピオニーは見ている、イオンには多少程度だが気を遣ってその事は言わずにいたが。



・・・ただこれでもまた自分の為の都合のいいことを願われても意味がない、ピオニーはそう思いつつもイオンを見据え言葉を紡ぐ。






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