時代と焔の守り手は龍の剣 第十三話

「驚く程の事ではありません。このままモースの介入が続けば遅かれ早かれキムラスカとマルクト間で戦争が起きるのは火を見るより明らかの上、ダアトがキムラスカに正義ありと中立国の立場も忘れ兵を動かす可能性も有り得ます。かといってそれらを全て撃退した所で諦めず更なる手を加えてくるのはまた容易に想像がつきます・・・だから殺すんですよ、その方が後々を考えたら容易にカタがつきます」
「た、確かにそうですが・・・いいんですか・・・?余程うまくやらなければまず疑われるのは、マルクトなんですよ・・・?」
「その辺りの事も織り込み済みです」
「えっ・・・?」
そんな驚きもさておきとモースを殺すメリットを語るジェイドにディストは両手を広げ、正気かと問うように顔をひきつらせる。だが今のジェイドは死霊使いと呼ばれるその知謀をフルに活用している、死角などない。
「確かに色々知っている我々をキムラスカにダアトが疑うのは当然と言えるでしょう。ただだからと言って両者は我々をれっきとした証拠もなく訴える事が出来ると思いますか?片や下手につついたらモースと共謀していたとアクゼリュスを崩落させる謀を暴かれるかもしれない、片や下手につついたら今の導師が偽者だと言うことを暴かれるかもしれない・・・そんな恐怖の上で」
「っ・・・成程、世論を味方に出来るだけの材料は今マルクトの方にあると言うことですか・・・」
ジェイドが語るのはマルクトが今どれだけ有利な材料があるかとの適例。それを聞きディストも冷や汗をかきながらも納得する、それなら攻撃も迂闊には出来ないと。
「とはいってもモース殺害をマルクトがやったなどと感付かせるわけにはいきません、状況証拠だけならいくらでも差し上げますが決定的証拠などやる気は毛頭ありませんからね。ですから確実にケセドニアでダアトに帰す前に状況を整え、殺します」
「・・・ひっ・・・!」
だがディストは更に冷や汗をかきひきつった声を耐えきれず上げてしまった、ジェイドの嘘も余裕など全く見せない真剣なだけの殺意を持って殺すと言い切ったその顔に。



・・・ケセドニアにてダアト行きの船が出港出来なかった理由、それは簡単に言えばマルクト軍の工作によるものだ。出港出来なければダアトに帰りたがるモースでもケセドニアに留まらざるを得なくなる、そう考えた上でモースが来たのを確認して1日かけて直る程度の不備を施したのだ。

それで留まるならと候補に上がるのはダアトの領事館がないケセドニアでは、必然国境を跨いだ上でケセドニアに存在するキムラスカ側かマルクト側の宿しかなかった。しかしここで確実にモースを仕留めたいジェイドにとってキムラスカ側の宿に泊まられては元も子もなかったため、そこに一般人に化けさせたマルクトの手の人間を宿が満室にさせるまで派遣した。

・・・そこまでやったことでようやくモースは観念してマルクト側の宿に泊まることを決断した、それだけの事をしたジェイドの執念は実ったのだ。確実にモースを殺さんとした執念が・・・



「・・・ただ状況は整えるとは言え、マルクトの人間がダアトの大詠師を殺したという姿を見られれば台無しですからね。だからモースを殺す実行人はカクノシン氏が務めます」
「・・・え・・・?」
しかしそんな自らが殺ると言わんばかりの空気だったジェイドから下手人は比古清十郎だと視線を向けて言われたことに、ディストは恐怖から一転して呆気に取られた声を上げた。










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