時代と焔の守り手は龍の剣

「・・・なんだ、コイツは・・・」
長身長髪の黒髪を後ろで結び、白いマントを羽織り手に血の滴る抜き身の刀を持った男。その男は目の前に広がる魔物達の死体の中心にいる、薄汚れてぼろい服を着た黒髪の子供を見て不可解そうに呟いていた。
「こんなところで寝ているとは・・・豪胆なのか、それとも・・・・・・チッ、あまりいい気はせんな」
自身で独り言を呟きながらも、豪胆などではないとわかっていただけに男は不機嫌そうに顔を歪める。
魔物のひしめくこんなところで寝る子供などいない、つまりこの子供はなんらかの理由で見捨てられた・・・男はその考えに行き着いていた。
「・・・ここからじゃカイツールの国境も港も中途半端に遠い・・・仕方ない、小屋に連れていくか・・・」
刀を納め辺りを見渡しながら男はその子供に近付き肩に担ぎ上げると、おもむろに歩き出す。自らの住む、小屋の方へ・・・












「ん・・・こ、こは?」
「気付いたか」
男の住む小屋。男により布団の中で寝せられていた子供は起き上がり恐る恐る声を上げ、近くに座っていた男は声をかける。
「ヒッ!・・・」
が、瞬間的に子供は布団を盾にして怯えたように声を上げて顔と身を隠す。
「だ、誰・・・!?あなたも、あの人達の仲間・・・!?」
「・・・誰の事を言っているのか知らんが、俺は一人でここに暮らしてる者だ。俺はお前が平原で魔物に襲われそうになっているのを見かけたから助けたんだが、お前が気絶していたから目覚めるまで待とうとここに連れて来た。それだけのことだ」
明らかに動揺と恐怖を伴った少し高いソプラノ気味の声に、男はぶっきらぼうながらもさりげなく子供が口にした者との関係性を否定して子供の安心を得ようとする。
「そう、なんですか・・・」
男の声に安心したよう、子供は布団を少しのけて男を探るように見る。
「・・・お前、何故あんな平野のど真ん中に倒れていた?」
「えっ?えっえと、それは・・・」
そこから返されたのは男からの質問。
「・・・わかりません」
「わからないだと?」
だが子供はその質問に困ったよう間を空け、諦めたように首を振る。その答えに子供が怯えない程度に男が目を鋭く細める。
「はい・・・気付いたら私はどこか、ホコリっぽくて暗い所にいました。けど私はそこがどこかもわからないし、自分がどんな名前だったのかもわからなくてすごく不安になっていたんです・・・」
「名前がわからない、だと?・・・もしかしてお前、記憶喪失なのか?」
「・・・多分、そうだと思います」
状況説明をしだす子供が名前がわからないと不安を押し出した声で明かすと、男は記憶喪失なのかと聞いて子供はコクりと頷く。
「・・・わかった。目覚めてから記憶に残っている範囲でいい、話してくれ」
「はい・・・私はどうしようかと震えていました。そうしていたらそこに何か話し込みながら何人か人が来たんです」
「人?」
「はい。けど何か話ながらその人達は来たんですけど、その声がすごく怖くて私はジッと目をつぶっていたんです・・・」
「その中身は覚えているか?」
「・・・はっきり聞こえた声はこれだけです。『二人目が成功した今、こっちを生かす意味はない。適当に処分しろ』・・・そう、私の方を見ながら言われているように思ったから私はただひたすらジッとしてました・・・その時私、どうしていいか、わからなかったから・・・」
その声に余程の恐怖を感じていたのがわかるほど、子供は布団を手を白くするほどに握り締める。
「・・・それからお前は気絶か何かして、気を失ったという訳か」
「はい・・・多分その声を出した人が去ったと足音で感じた後、私は誰かに担がれてどこかに連れていかれました・・・それでジッとしている内に・・・」
「成程な・・・」
記憶喪失の怯えた子供が話す話なだけにハッキリ見えない内容ではあるが、それ以上に厄介極まりない事情があることは男にも十分に理解出来る。それだけに男は普段はあまり動かない表情筋を悩ましげに変える。








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