時代と焔の守り手は龍の剣 第十話

・・・人にどうするかを委ねる、それは自身の意志を放棄していると言っていい。そして間違っていようがなんであろうが、信念でさえも。

人を殺す覚悟はある、だがそれで自身の命が失われることは惜しい。その上で殺意を捨て去る覚悟があり、更にその殺意を復活させる可能性を自身であると明かした・・・これだけ聞いて吹っ切れた行動を取ってるなど、まず思えるはずがない。ガイはルークに全て託したなどと言ってその実、ただ結論を人に丸投げした・・・そう比古清十郎は突き付けただけのことだ。



「・・・もう十数年も経った・・・キズを負っても歩もうと決めた者、全てを諦めた者・・・かろうじてホドから逃げ延びた者を多少なりとも知っている俺だが、お前程宙ぶらりんになっている奴は知らん」
「えっ・・・!?あんたは、ホド出身の人間が他に何人もいることを知っている、のか・・・!?」
「知ってはいる・・・だが何故お前にそのようなことを話さねばならん?・・・今俺が言っているのはあくまでお前に対して、ある元ホドの民が感じているただの領主一族生き残りに対する罵倒だ」
「・・・っ!」



・・・漆黒の翼の本拠地であるナム孤島、そこには結構な数の元ホド出身の人間がいる。漆黒の翼と懇意にしていることもある上にホド出身の人間が多数いることから、当然比古清十郎も顔を出したことはある。

・・・比古清十郎から見てそこにいる人間は故郷がなくなった痛みを忘れた訳ではないが、それらを乗り越えて新たな道を見つけ生きていると感じていた・・・少なくとも今動揺して1睨みされただけで黙るガイのような人間は1人もいないとも。



「・・・ルークに賭けた、と言ったな。お前は?・・・なら聞くがお前はずっとルークがどちらにも判断のつかんような行動を取っていたならずっと何もせず、ただファブレでジッと結論が出るのを待つ気でいたとでも言うつもりか?」
「そ、それは・・・」
「更に言うなら今までファブレで過ごした時間、その時間で出来た事はどれだけあった?それこそ何かをやれる時間は少なからずあったはずだ、復讐するか諦めるかを決めた後にやると決めた事の為に使う時間はな・・・それで聞くがお前はマルクトに戻ったなら何をするつもりだった?ガルディオスとしてと言ったが、いつになるかわからんルークの結論を待った後で戻って何が出来ると言う?答えてみろ」
「・・・っ・・・あっ・・・な、何を・!?」



・・・今までガイのやってきた事をまとめるならただルークを待っていただけ、その中にマルクトの為だとかガルディオスの生き残りとしてだとかそう言った大義に実務は全く感じられなかった。そしてもしこうやってアクゼリュスの件がなければガイはきっかけがない限りファブレを滅ぼそうともファブレから離れようともせず、ただルークの側に居続けただけの可能性があった。

だからあえてガイにもわかるようハッキリと比古清十郎は言葉にした、『あてもない物をただ待ち続け無為に時間は過ごす気はなかったんだろう?』と問いかけることで、気付こうともしなかった愚かさを気付かせる為・・・その効果はてきめんでどこまで今考えているかはわからないが、ガイの顔には脂汗が浮かび目の焦点はどこにも定まらず頭を抱え出している。おそらく比古清十郎の言葉から今までの行動を考え直し、その結果自身が何かやっていたのかを思いつけないのだろう・・・最も無いものを思い出すなど出来はしない、出来たとしても記憶の捏造を自身で納得させるために言った物だろうが。










14/22ページ
スキ