時代と焔の守り手は龍の剣 第十話

(・・・おそらくどちらも正解だろうが、後者の方が意味合いとしては強いだろうな・・・)
その様子を見て比古清十郎は自身のモースに対するイメージを併せ、後者の方が強いと見た。



・・・本来スパイと言う存在はそうだとバレなければ使える存在の為、大抵出来る限りは存在の抹消を願わない物である。だがアニスを使っているモースに限って言えば、話は違ってくる。

・・・預言を何より大事にするモースにとって、預言達成の為の過程など必要な物ではない。預言が達成された結果さえあれば、モースはどうなっても構わないのだ。例え自身の手駒が失われようとも。その上モースはダアトという存在が残りさえすれば、教団の金はいくらでも預言達成の為に使っても許されると考えている節がある。そして教団の人員も、使い捨てのようなものと思っている節すらも。

・・・そんなモースからしてみれば、アニスは使える存在ではあっても使い続けようと思える存在ではないと思っているだろう。神託の盾はあくまでも自分の思う預言達成の手段の有用な手駒だが、アニスは穏健派のイオンの動向を探る為だけに配置した言ってみればそこまで重要視するまでもない手駒・・・だからこそモースは六神将にアニスは自身のスパイだから殺すななどと言った指示を出すこともなかったのだろう、別に殺されたとてさして痛くも痒くもない使い捨ての手駒だったのだから・・・



・・・ただアニスからしてみればそこまで言われるとは思っていなかったのだろう、ヴァンからの追加の言葉にアニスは沈黙をせざるを得なかった。あまりの衝撃に。
だがジェイドも比古清十郎もアニスの傷心など一切気にならない。重要なのは起こしてしまった事実、それのみである。
「・・・というわけです。わかりますね、アニス。貴女がやった行動、その意味が」
「ま、待ってくださいジェイド!アニスにも事情が・・・!」
「大した優しさだな、導師。まだたった一人の教団員を守ろうとするか・・・だがそれも無意味だ」
「・・・っ!」
いよいよと言わんばかりにジェイドが眼鏡を抑えつつ冷酷な声色を作る。それにどうにかと声を荒げるイオンの態度に比古清十郎が静かながらも盛大な怒りを潜ませた瞳をぶつけ、そこからアニスに視線を送るよう見下す。
「そもそもの話、このような状況を作っているのは誰のせいだと思っている?・・・今までの話を総合すればわかるだろう。マルクトを騙し戦争に至る流れを作ろうとした大詠師に実行犯のヴァン以下の神託の盾に、裏に大詠師との繋がりがあるとも知らせずのうのうとスパイを続けていたコイツに、いくら生い立ちの複雑さがあったとはいえそんな馬鹿どもを制御も処分も出来なかったお前を含めた・・・全てダアトの愚かさのせいだ。そしてマルクトが今取っているのはそんなダアトに対してのれっきとした敵対行動だ、同情ばかりを求めた所でなんにもならんぞ」
「っ!・・・ジェ、ジェイド・・・!」
「カクノシン氏の言う通りですよ、今我々の取っている行動はマルクトの皇帝のピオニー陛下の勅命あっての行動です・・・それを何故情けをかけてくれなどと言った生易しい声1つでやめなければならないのです?・・・今言った事を理解して尚まだアニスを擁護したいとおっしゃるのでしたら私の声にアニスが答えてからにしてください、でなければ早々にカクノシン氏に刀を振り下ろしていただいても構わないのですよ?アニスに情状酌量の余地があるかどうかを判断するのは我々ですが、それを我々に判断さえさせてもらえず貴方がアニスの無罪を貫こうとするならもうもはやマルクトの声を無視した物ですからね・・・故にこちらも貴方の声を無視させていただきますが、それでもいいのですか?」
「!・・・いえ・・・」
・・・比古清十郎、そしてジェイド。苛烈だが確かに理の通った論を二人からぶつけられたイオンから出てきたのは力ない、そして諦めのこもったかすれた声のアニスの処刑に対するうなだれた否定だった。



・・・なんとか声を絞り出したイオンを見てジェイドは油断なく視線を向ける・・・そこにはガタガタと身を震えさせるアニス・・・








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