時代と焔の守り手は龍の剣 第十話

「「!?」」
・・・初めて周知となったタトリン夫妻の借金の裏側に、アニスとイオンの顔が驚愕と困惑に彩られる。
「・・・ほう・・・随分と念の入った事をしているんだな、あの預言狂いは」
「確かに私もそう思いますよ、まさか自身の所属する教団員が底抜けに愚かだからと言ってもそうやって借金まみれにさせるなどとはといった気持ちでいっぱいです」
「そんな、まさか・・・何故、モースが・・・」
「・・・ふぅ」
その事を初めて聞いた比古清十郎は感心したような声を上げつつも声色を低く下げ、その行動が示す物が何かを理解したというように苛立たしげになる。ジェイドもそれを大方肯定するよう心のこもらない笑みでタトリン夫妻に対しての罵倒を入れるが、呆然とイオンが理解をしきれない様子を見てジェイドはたまらず溜め息を吐き・・・青息吐息で顔面蒼白なアニスを指差す。
「・・・イオン様、真剣に逃避せず考えていただきたい。アニスの両親が未だに借金をし続けていて大詠師がそれを指図しているという状況・・・これのどこに善意があると言えますか?ならば何か狙いがある、そうとは思えませんか?」
「それ、は・・・そう、ですけど・・・」
「それが何か自分にはわからない、ですか?でしたら更にヒントを差し上げましょう・・・借金という物はある程度膨らんでしまえば貸した側は返せる見込みがないと判断した場合、もう金は貸さないと判断するのが基本です。なのに金貸し、正確には大詠師はそれを許してしまっています・・・とは言えあくまでも借金は借金、借金することを許す者がいても結局借りた金は返済しなければなりません。なのにその義務とも言えるべき行動をタトリン夫妻は更に借金するという行動からわかる通り、ほぼ放棄しています。そうなれば誰にしわ寄せが来ますか、イオン様?」
「・・・っ・・・!」
・・・意地悪い物言いであり、最初から指された指は答えを示し続けている。ジェイドの言葉になんとか言葉を紡いで返したイオンだったが、答えに否応なしに言葉と指で導かれた事で顔を青くしてイオンははっと息を呑んだ。
「そうです、イオン様。彼女は大詠師に対して大きな借りがあるのですよ、多額の借金という借りがね・・・もっとも大詠師が裏で糸を引いていたなど、タトリン家の誰も知らなかった事のようですがね」
ようやく理解した、そんな様子を見てジェイドははっきりそれを口にする。誤解がないよう、確かな真実を知らしめる為に。



・・・借金のシステムとして、借金の上限額は大抵決められている物である。元々金を貸す側の目的とする物は、借金をしている者からの利子をどれだけ取れるかにある。だが行き過ぎた借金をすればその利子すらも払えない事態にもなり得る、だからこそ金貸しは家庭の成り立ちなどを見てどれくらい貸せるかを判断してそれ以上は金を貸さない物だ。

だがモースはそんな限度を越えた借金をタトリン夫妻に許した、普通は許さない物を・・・つまりそうするだけの価値があると考えたから、モースはタトリン夫妻に借金させているのだ。そしてその肝心要は、アニスにあるとノワールは掴んでいた・・・











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