時代と焔の守り手は龍の剣 第九話

「くっ・・・!」
‘ギィンッ・・・ズバッ!’
「ぐあっ・・・!」
比古清十郎から容赦のない龍槌閃が放たれリグレットはなんとか反応して頭の上で譜銃を重ねて刀を受け止めるが、防御など意味を成さないよう譜銃が受け止めた部分から両断され、刀は勢いを止めずリグレットの額を割る。だが防御が幸を奏したのかリグレットの額からは血がボトボト落ちてはいるが、即死することなく譜銃から手を放し額に手を当てる。
「く、くそっ・・・!」
「・・・しぶといな、だが今楽にしてやる」
「カクノシンさん!」
そこからまだ戦意を失っていない目をリグレットは血に染まった顔から覗かせるが、改めて比古清十郎は刀を構え直す。その様子にイオンがリグレットに訪れるだろう結末を察して比古清十郎に止めさせるよう叫びかけるが・・・比古清十郎がそんな声で止まるはずがなかった。



「飛天御剣流・九頭龍閃」



‘ドンッ・・・ズパァッ!・・・ドタッ’
「「・・・っ!」」
・・・比古清十郎が自身のもっとも得意とする技の名を呟いた後、刹那にイオンとアニスが見たのは比古清十郎から全く同じタイミングで九の斬撃が出たものであり・・・リグレットがその斬撃全てを受け、その箇所から血を盛大に吹き出して前のめりに倒れた物だった。
「・・・終わったか」
足元でもう動く気配のなくなったリグレットを一瞥すると刀を振り払い血糊を落とし、納刀してから比古清十郎は崖の上から飛び降りる。
「・・・何をしている、行くぞ。もう峠の出口は近いぞ」
「あ、あのカクノシンさん・・・リグレットは」
「死んだが、なんだ?批難は聞かんと言っておいたはずだ」
「・・・っ!」
その光景を呆然と見ていた二人になんでもないよう行くように言うが、恐る恐るイオンがどうなったのかを問うてくる。しかしあらかじめ言っていた事をほじくりかえすなと言わんばかりに不機嫌にハッキリと死んだと返し、イオンは言葉を無くし顔を背ける。
「ちょっと、その言い方はないんじゃないですかぁ・・・!?」
しかし何故かイオンの様子に、今度はアニスが言葉を選べよと言わんばかりに噛みついてくる。
「何がだ。向こうは俺を殺しに来たのに、俺は相手を殺してはいけない・・・そんな決まりの中で俺は戦ってはいない。なのに何故俺が批難されねばならん。第一襲い掛かって来たのはお前らと同じダアトの人間だ、本来そう言った身内の恥は身内で片付けるのが普通だろう。なのにお前らが止められなかった身内の不始末を俺がわざわざ引き受けたんだ、逆に感謝されてもおかしくはないと思うがな。ましてや俺はお前の不始末であるさらわれた導師の奪還をした時に奴らに顔を覚えられたんだ、尚更お前に言われたくはない」
「うっ・・・!」
そんなアニスの声を比古清十郎は真っ向からアニスの不始末も併せ持って返し、あっさりと言葉を詰まらさせる。



・・・明らかに勢い以外の何者でもなく、イオン擁護に回った。それが自身の失態を全く省みた行動ではないと考えもせず。



「・・・チッ」
そんなことを考えれば考える程募るのはただイラつきだけ。自分のまともな思考回路をいっそ放棄したくなる気持ちを舌打ちに凝縮して納め、比古清十郎は何も言わず歩き出す。
「「・・・」」
明らかに不機嫌だとわかるがそれでもついていかねば先には進めない、二人は恐々といった様子を浮かべつつもその背を追いかけていく・・・











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