時代と焔の守り手は龍の剣 第九話

「・・・1つ年長者として助言をしておく。自分の価値観で善だと思っていたことが、他人からすればそうではない事などそうそう珍しい事でもない・・・心に刻むかどうかはお前の自由だ」
「っ・・・はい、わかりました。では失礼します・・・」
そこから言外に比古清十郎は助言という言葉面からかけ離れた自身は迷惑だという含みを入れた言葉を放ち、イオンはしょんぼりとした様子になり部屋を退出していく。
「・・・心底から自身の教訓にはせんだろうな、あれは」
その後ろ姿を見届け、比古清十郎は酒を煽り飲みながらも自身の言いたいことを十分の一程度も受け止められてないだろうなと感じていた。
「・・・あの性格なら別段俺の思惑の邪魔にはならんだろうが、全てが終わった後にどう化けるかが気になる所だな・・・まぁいい、成長せんならそれまでのことだ。時代が愚妹の輩を排斥することになるだろう、よくも悪くもな・・・」
そしてそんなイオンが導師としてまともになるかどうかを考えようとするが、先の事は人々が決めるだろうと比古清十郎は珍しく願望が入った言葉を口にする。預言で物事を決めるのではなく、人自身の意志でこれからは物事を決める時代になるだろうという願望にも似た先見の言葉を。












・・・そんな風に比古清十郎が一人先を見据えた望む時代を考えていると、船はカイツールの軍港に到着した。
そこから船を降り、辺りを見渡す比古清十郎。
(見たところ大した動きは無さそうだが・・・急ぐか、セカンにばかり手間はかけさせる訳にもいかんからな)
軍港の様子を確認する限りでは特に動きは見られない、だがそれでも事態は見えない所で動いている。そう考えさっさと軍港を出ようと足を運ぶ。



・・・そして出口に差し掛かった時、比古清十郎の元に一人の帽子を目深に被った小太りで小柄な男が話しかけてきた。
「おっと、旦那!お久しぶりでガスね」
「・・・お前か、うまく化けた物だな」
「へっへっへっ、その辺りも徹底済みでガスよ・・・この通り普通の男にしか見えないような変装もお手の物、っとね」
やたらと馴れ馴れしいその男の声の中、聞き覚えのある口調を耳にし比古清十郎はノワールの取り巻きの男の一人の髭男だと思い至り素直に感心する。体型はともかくとしても髭がなくて口調が変わるだけでも大分印象が違う、そう比古清十郎は思った。付き合いの浅い者なら中年のオッサンにしか思わないだろうと、そうも考えつつ。
「それはともかく旦那、姐さんから手紙は受け取ってるでガスよ。馬車の準備はヨークがしてるから今すぐにでも出発出来るガスよ?」
「あぁ、ちょっと待て・・・来たな。話を聞いてるなら適当に俺に合わせろ、奴らも馬車に乗せる」
「わかったでガス」
そこから取り巻きの男のウルシーが馬車はすぐに出せると言い、比古清十郎は後ろからイオン達が来たのを確認すると口裏を合わせろと命じてウルシーも了解で返す。
「・・・あれ?カクノシンさん、そちらの方は?」
「俺の住む小屋によく来る商人だ」
そんなやり取りがあったとも知らず近くに来たイオンはウルシーの正体に気付かず誰かと問うが、即座に比古清十郎は嘘で返す。
「仕事の関係でたまたまここに来ていたらしくな、ちょうどいいから俺はこいつの辻馬車に乗せていってもらうことにした」
「よかったらどうですか、お二方も?いつもカクノシンさんにはご贔屓にしてもらってますし、陶器を譲っていただいたりもしてますので、ついででよろしければタダでお乗せしますよ?」
「えっ!ホントですかぁ!?乗せていってもらいましょうよぉ、イオン様ぁ」
「そうですね・・・すみません、ではよろしくお願いします」
そこからたまたま仕事で来ていた、好意にしてもらっているからタダで辻馬車に乗せると言った立て続けの嘘にアニスはすぐさま飛び付きイオンも疑いなど一片も見せず頭を下げる。
(・・・何故こうも額面通りに受け取る・・・)
そんな二人を見て程があるだろうと思いながら、比古清十郎はその言葉を飲み込み「なら行くぞ」と一言言って先を歩き出す。









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