時代と焔の守り手は龍の剣 第九話

・・・所は変わり、ケセドニア。比古清十郎はイオン達を引き連れ、ケセドニアに到着していた。



(さて、出来ればあの阿呆姫に会わずにここを通り過ぎたい所だが・・・)
街の中を歩いていき、比古清十郎はナタリアの顔を見ることなく終わらせたいなどと考える。が、そうそううまく行かないのは世の常である。
「あの、すみません・・・その、よければ少しナタリアの様子を見に行ってもいいですか?」
「・・・何故だ?」
後ろから控えめなイオンの声がかかってきた、その事に表面上は平静を保ちつつ比古清十郎は振り返り質問の訳を問う。
「アニスに話を聞けば彼女は和平の事を想って行動したとの事だと聞いたので、彼女の意志を少しでも受け止めてからアクゼリュスに向かう方がいいと思って話をしに行こうと考えたんです」
「・・・やはり、アクゼリュスに行くことにしたのか。お前は」
「・・・はい、だからせめて船が出るまでお話をしたいのですが・・・」
その訳をナタリアの為にと切に語るイオンの顔に比古清十郎はアクゼリュス行きを再確認し、イオンは悲しげに話をしたいと言う。
「・・・勝手にしろ、俺はもうお前らを守る義理もない。だが1つ言っておく・・・いらんいさかいを持ち込む事になるから同行は申し込まれても断れ、こちらから同情心で一緒に行くかなどと誘うのは言語道断だ。それはそっちの小娘から俺の言ったことを聞いて、よくわかるはずだ」
「・・・はい、だからお話をしに行くんです」
その様子に事も無げにしながらもナタリアを連れて帰って来るなと念を押す比古清十郎に、イオンはだから行くのだと言う。
「そうか・・・なら行けばいい、王女殿下の身分ならキムラスカの大使館にでもいるだろう、俺は先に船に乗る、乗り遅れても知らんぞ」
「はい・・・では行きましょう、アニス」
「はい、イオン様・・・」
その念押しをしたところで比古清十郎は先に船に乗ると言い、イオン達は大使館へと向かっていく。アニスは妙な物を見るような視線を比古清十郎に向けてから。
「・・・話は聞いてたよ。随分とアンタらしくないねぇ、センセイ?」
「・・・どうせ何を言っても奴らはアクゼリュスに行く。変に話をこじらせ時間を取るよりマシだと思った程度だ」
そこに比古清十郎が一人になったのを計ったようノワールが前から近づいてきて、面倒そうに眼を閉じ眉を寄せる。
「・・・あいつら二人は?」
「先にここに来た大佐殿から話を聞いてね、あの二人はセンセイが来た時に備えてカイツールの軍港付近で辻馬車構えて待ってるはずだよ」
「用意がいいな」
「そりゃなんたってあたしらの悲願もかかってるわけだからね、それくらいは喜んでやらせてもらうよ」
そこから比古清十郎は目を開け連れの二人がいないことに目を向け、ノワールは少し嬉しそうにその訳を語る。
「ただ、導師達は乗せるのかい?あの様子だと間違いなくセンセイに付いてくるだろうけどさ」
「構わん。あのお人好しの導師の事だ、少し奴らが変装すればなんら疑いもせず辻馬車に乗るだろう。いい人でよかった、などとでも思いながらな・・・まぁ念は押しておいたから、恨まれても筋違いとしか俺は言わんがな」
しかしその顔をすぐに消し首を傾げながらノワールはイオン達はどうするのかと聞き、比古清十郎はいやらしく人の悪い笑みをニヤリと浮かべながら乗せていいと告げる。
「まぁ暗闇の夢って顔もあるから変装は出来ない訳じゃないけど、あたしらに劣らないほど悪い顔してるよ・・・センセイ」
「ふん、こんな人のいい人間は他にはいないと思うがな」
そんな顔にノワールは艶のある笑みでツッコミを入れるが、比古清十郎は更に余裕を見せた笑みを口元に浮かべ皮肉で返す。








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