焔と渦巻く忍法帖 第十話

「で、ではルーク様も無事に帰られた事ですので、ご使者の方々はセシル少将が責任を持って城にお連れします」
この雰囲気の中、自ら発言していいものかと皆が躊躇していたが、ゴールドバーグが話題を元に戻す為、内心ヒヤヒヤしながら話をこちらにふってきた。
「ルーク様は私どもバチカル守備隊とご自宅へ・・・」
「ちょっと待ってくれ、ゴールドバーグ将軍。聞きたい事がある」
「は、なんでしょうか?」
そこにゴールドバーグの作っていた流れを止めるルーク。
「今城に大詠師モースはいるのか?」
「は?いることはいますが・・・」
いきなりのルークの質問の意図がわからないゴールドバーグ、だが聞かれた事には律儀に疑問符つきでだが答える。
「・・・俺は導師イオンから和平の取り次ぎを頼まれてんだ。一応キムラスカの臣民としてダアトの最高責任者から頼まれた事だからな。だからイオン達は俺が城まで連れていく」
モースの事を聞いて、行かなくてもいいはずの城に行くと言い出したルーク。確かにルークはイオンから取り次ぎを頼まれたが、何も城にまで付いていく必要はどこにもない。口添えなど一枚の書状や、護衛のセシル少将への一言ですむのだから。あえてここで城に行くと言った本当の理由、それはモースとやらの顔を見るためだ。モースがバチカルにいないというのであれば、ルークはセシル少将に一言伝えて屋敷に戻る形を取ろうと思っていた。だがいるというなら話は別。
その気になれば城に忍び込むくらいわけない事だが、真正面からルークは預言を大事とする馬鹿の顔を拝んでやろうと思っていた。
「ルーク、見直したわ。あなたも自分の責任をきちんと理解しているのね」
そこに修頭胸が見当違いな誉め言葉を放ってきた。その言葉がその場に響き通った瞬間、ゴールドバーグとセシル少将の表情が若干引きつり気味になった。
「・・・?どうしたんですか、将軍?」
イオンが二人の顔を見て、何事かと問う。
「あ、いえ・・・」
「もう話はいいだろ。イオン達を連れてくぞ」
どう答えるかうろたえていたゴールドバーグの口を塞ぐかのように、ルークが二人にしか見えない立ち位置を確保して『早くしろ』と目で促す。
「・・・承知しました。ならば公爵への使いはセシル将軍に頼みましょう。セシル将軍、行ってくれるか?」
「・・・了解です」
引きつった顔をなんとか真面目な顔で誤魔化しながらも、二人はルークの視線の意を汲んでさっさと話の流れを断ち切った。
「んじゃ、とっとと行こうぜ」
「行くってばよ」
二人の態度に釈然としない表情を浮かべている同行者達を気にせず、何もないかのようにルークとナルトはバチカルの上の階層へと繋がる天空客車へと一足先に歩いていった。



(馬鹿なのは変わんないってばよ、修頭胸。今さっきルークに言われたばかりなのに)
(馬鹿なのは上司もだろ?こんなやつの上に立ってんだから)
天空客車の中で読唇術で話すルーク達。先程セシル少将達が表情を引きつらせた理由、それは言葉が放たれた瞬間のルーク達の表情をまともに見たからだ。
(中途半端に我慢しなかったのはまずったかな?セシル将軍達引いてたけど)
(大丈夫だってばよ。一瞬だったから勘違いだって思うってばよ)
あの瞬間セシル少将達はが見たものは、ルークの表情が一切削げ落ちた虚無の表情だった。
人はある程度の感情のラインを越えると、その感情の表情が消えてしまう。例えば、悲しみが大きすぎれば人は泣くという動作すら出来ずに無表情になってしまう。適度な悲しみならば涙を浮かべるとまではいかなくても、表情には多少は出る。それが人間というものだ。
今回ルーク達が見せた表情は『怒り』から来る変化だった。
(流石に自分の立場を立ち会いに出して話をするとおかしくなるからな。説教してぇ気持ち押さえるのはめんどくさかったぜ)
(俺も色々言いたかったけど立場上そんなに言えないからむかつくってばよ)
言えないから、その鬱憤を我慢するために出した表情をセシル少将達に見られた。まぁ任務なら任務だと割りきれるのだが、今は物凄く個人的な事なので割りきりようがなかった。
(あと少しあと少し、我慢我慢)
じょじよにキレつつある感情のタガ、任務の時とは全く違うストレスに悩まされる二人であった。




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