焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「現にお前、勉学の為に机にかじりついてる時にいっぺんでも考えた事あったか?実績さえ残せばキムラスカの為に自分は自分の意志でキムラスカをより良く作れるって、この身を粉にして働けるって?・・・考えれたか、いや考えれる訳ねぇだろ。だって隣にいて頑張れって休憩もさせず自分を走らせてるのは・・・名前しか愛してない、自分を愛してない婚約者だ。大方お前は焦ってこう考えてたんじゃないのか、『このままじゃナタリアに見放される』・・・なんて。そこに愛なんてあると思うか?あるのは精々愛って言葉を大義名分にした脅迫、って代物じゃねーのか?自分の胸に問いかけてみろよ」
「・・・っ・・・!!」
・・・もう醜い本質を明らかにされた人間は、その相手を疑わずにはいられない。そして疑心暗鬼を植え付けてくれた本人、ルークの言葉にそう思う事すら封印していた本当の感情を掘り起こされて煙デコは今までの猪思考姫の庇い方が嘘のよう、ただ目を見開き滝のような冷汗をかいてブルブルと震えながら制止してしまう。



・・・煙デコの不満が他の誰にぶつけるでもなく全てをルークのせいにしたのは元来の性格もあるが、その不満を生み出していた大半の存在の猪思考姫を責めるような思考を放棄していたからである。

かつて美しく気高い契りを親の決めた婚約の為でなく、自分達で自発的に行った・・・そんな相手を進んで責めたいなどと、普通は思わないだろう。

だがそうやって目を反らしつづけて来た物が他ならぬ自らを苦しめてきた原因、そして今まで向けられてきた物は真実の愛ではなく名前というフィルター越しの薄っぺらい紙のような愛とすら言えない感情の絞りカス・・・ルークはそれを気付かせてやっただけに過ぎないのだ。

・・・そして真実に気付いた代償として、これからは猪思考姫の真意を煙デコは疑いに疑うだろう。これは本当の愛なのか、自分は目の前の人物にどう思われているのかと。



・・・そして、もう一人の人物に対してもルークはまた手を投じる。
「さて・・・そんな名前、いや地位に対する愛を囁いていた売女のからっぽ馬鹿姫。これからてめぇはどう『ルーク様』を愛する気だ?『ルーク様』はもう実権を持つ王様にはなれないぞ?それともお前、こうとでも言うつもりなのか?貴方は私の『ルーク』ではないから、嫌になった。だから婚約破棄したい、とでも自分の王女って立場があくまで偽者だって知りながらこの『ルーク様』見捨ててさ。まぁそんなこと言ったら陛下の方が何を言ってるって、お前の方をどうにかしようとするのが目に見えるけどな。だってお前も結局俺を罵っちゃいるけど、元を正しゃ王女の偽者なんだし・・・で、改めて聞くけどお前どういう風に『ルーク様』を愛する気だ?」
「・・・っ!・・・あっ・・・あぁっ・・・あぁぁぁぁぁぁっ!!」
猪思考姫に煙デコを否定する権利などあるわけないと含めながら、ルークはその名前への愛を地位への愛に盛大に愛のランクを格下げしてどう煙デコを愛するかを問う。
だが既に自らの本質を聞かされて相手にもその本質を聞かれた猪思考姫は煙デコを一回見て、下手な答えを言うことのまずさを察し言葉を選ぼうとするが、頭の中身がからっぽの人物からいい言い訳など到底出て来るはずもなくまた涙を流し出し、狂乱したよう掴まれた髪を気にすることもなく奇声を上げながら頭を振り乱す。



・・・煙デコが猪思考姫に対して絶対の愛を向ける事はもうない、それはすなわち猪思考姫にとって絶対弁護してくれるはずだった味方の永久の損失に等しかった。いや、もう既にそれ以上のこれからの最大の敵になったこととの同義に等しかった。

あくまでキムラスカの貴族の中で味方をしてくれていたのは城の脱走の件で信頼を失ってから煙デコのみだったが、それもあくまで婚約関係と約束とやらでいつまでも縛れると思った今までの事・・・これからは、もう違う。

まず自身の煙デコに対する想いの本質に気付いた事もあり、煙デコという個人に対する愛など抱けないと感じただろう。だがそう感じているのは相手側である煙デコも同様だ。こんな状態で何のしがらみもなく愛を育むなど、到底出来るはずがない。

そして互いに疑心暗鬼を埋め込まれたはずの二人であるのに、その優位性が煙デコにあるとハッキリとしていたことも猪思考姫の不利であった。








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