焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「なぁ、おかしいと思わなかったのか?自分の言葉を何の疑いもなく、一瞬で全て飲み込んでしまったあまりの要領の良さをさ」
「それ、は・・・てめぇが俺とは、あまりにも違うから・・・」
「違う?今言っただろ、俺。正体が分かるまで俺にこいつは『ルーク』として愛を囁いてたって。お前普通そう聞いて思うか?つーか、今思ってるんじゃないのか?あまりにもあっさりし過ぎていたんじゃないかって、『本物のルーク・フォン・ファブレ』を迎え入れるその姿勢が」
「・・・っ・・・!」
・・・猪思考姫の行動はあまりにも自身の望む物以外を求めていない、その望む物とは『本物のルーク・フォン・ファブレ』であること。それを満たすなら無条件で愛を翻し、そちらになびく・・・
煙デコもそう聞いてしまっているだけに否定はしたいのだろうが既に疑心暗鬼に陥っており、語気は一切荒げられず終いにはルークから目を背ける。
「・・・それで聞くけどさ、お前ってファブレの家に居座っていた俺がいなくなっていたのに何で俺にやたらつっかかってきたんだ?」
「・・・何を・・・?」
しかしそこから更に二人の仲を引き裂かんとするような話から一転、ルークは元の自らに対する敵対心の事へ話を戻し煙デコは今向ける話題が何故それなのかと顔を向ける。
「いいから答えろよ。まぁ元々お前は俺を嫌ってたから訳がそれだけならそれでいいけど」
「・・・確かにてめぇを俺は今でも、気に食わない。だがこの三年、より一層てめぇをムカつくようになった出来事がある・・・」
「ほぅ?」
しかし質問に答える方が先だと詰めるルークに煙デコは渋々話し出し、ルークは内心内容に予想がつきながら興味を持ったよう先を促す。
「俺はたまたま聞いた、メイド達が話す世間話を・・・しかしその話の中身は俺にとって、最大の屈辱だった・・・その中身は俺ではなく、てめぇがファブレの家にいた方がよかったんじゃないかという中身だ・・・!」
「へぇ・・・」
ルークへの恨みを語る煙デコは沸々とその場面を思い出してはいるが、それでもルークを恐れてか妙に抑えられた怒り口調でその時を語る。その声にルークはやはり予想通りだと頷くばかり。



・・・それもそうだろう。実績も何も残してない人間と、世界を救う程の偉業を成し遂げた人間。更に言うなら将来夫婦になるはずの猪思考姫が穏やかな顔をしてファブレの家を訪れていたなら話は違っただろうが、鬼気迫る思いを抱いた猪思考姫がほぼ常の割合で来ていたならいかにファブレに仕える人間としてもそうそう好感を抱けるはずがないだろう。

予想出来る場面としては二人のいる場所の近くに行くなり茶なりを差し入れするような状況で、度々メイドや使用人達は見かけていた事だろう。猪思考姫に必死に勉学を叩き込まれ、時には口汚く罵られる場面という物を。

・・・そんな場面を何度も見ればメイド達も噂話と愚痴の種に、煙デコの愚昧さを疑う声くらいは出て来る事だろう。まぁその話を当の本人に聞かれてしまったメイド達は迂闊だが、関わりのない他人を庇う気は一切ないルークはその後どうなったかはスルーする。



「どうしてだ・・・どうして被験者である俺が・・・レプリカであるお前に劣っていて、周りの人間にはそのことで見下される・・・何故だ・・・!?」
かろうじて残っている自我の大半は自分は被験者であるという無駄なプライド、だが折れそうな自身を苦しめているのは他ならぬその無駄なプライド・・・自身では絶対に認めようとしないだろう、それを改善しろと言っても。
しかしそれを告げて煙デコを救う気もないし、寧ろ希望も何もない場所に突き落とすつもりのルークはここで更に呟く。



「それはてめぇが選んだ道がガキの頃見ていたもんで、そのガキのまま成長しなかったからだよ。てめぇと空っぽ馬鹿姫がな」






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