焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「ふぅ・・・何も返事返してくれないけど、それって理由も無しにてめぇらは勝手な怒りをただぶつけただけだから理由は言えないってのか?そんなんだってんなら、別にそれでも構わねーんだけどさ。ただこういう風なこと聞いた事なかったか?自分がやられて嫌な事は人にやるな、そして目には目を歯には歯を、って言葉。まぁ前者は人として当然だけどな、後者に関しては相手に嫌われるような行動を取った行動が前提にあるから成り立った言葉なのがわかるだろ?。でさ、その言葉二つに従うなら俺っててめぇらに仕返しして当然って事の裏付けにならねぇ?なぁ?」
「「っ!?」」
力も何も感じられない暗愚夫婦の二人にルークは優しく諭すよう、だがけして遥かに優しさを超える恐怖を混ぜる事も忘れず二人の耳元にそっと話し掛ける。内容が‘返答次第では今すぐにでも殺す’と匂わされた物であるだけに、二人は泣くことも吐くことも忘れてビクッと怯えの色を目に浮かばせながら瞬間的に背筋を伸ばす。
「どうなんだ?早く本心・・・聞かせてくれよ」
「っ!わ、私は・・・」
そして最後の確認のように思われるルークの急かしに、猪思考姫が急いで口を開く。
「・・・ただ、私は貴方が私の望んだ『ルーク』ではなかったことを知って、そして『ルーク』が貴方を非常に嫌悪したこともあって尚のこと貴方を見るのが嫌になったのです・・・」
「成程、『ルーク・フォン・ファブレ』じゃなかった事と『ルーク様』が俺を嫌ってたから俺の一挙手一投足が気に食わなかったと?ハハッ・・・よーく言うぜ。自分ってもんが全くない、空っぽ馬鹿姫が」
「っ!?・・・自分が、ない・・・!?」
明らかに命惜しさに口を動かす猪思考姫。だがその言い訳にルークは中身がないと声を抑えながら言い、その言葉に猪思考姫は恐る恐る顔をルークに向ける。そこにあるのはただ笑みを浮かべ、目だけがひたすらゴミ以下の物を見るような冷めたルークの顔。
「さも自分の中から湧き出た感情のように話してっけどさ、それって結局他人ありきの他人の状況を判断して同調してるだけだろ。『ルーク』じゃないから、こっちが『ルーク』だったから・・・これのどこに自分ってもんがある?」
「それは・・・事実は事実、でしょう・・・」
「ああ、そりゃ事実だよ。けど事実を知ったら今まで俺に囁いてた熱のこもった『ルーク』への愛をすぐに本物が現れた瞬間、すぐに翻して『ルーク様』へ向けた。これのどこに自分がある?当時の『ルーク・フォン・ファブレ』だった俺って個人を見ていない、久しく会ってなくてどんな風になったかわからない『ルーク様』って個人をろくに見てすらいない、ただそこにあるのは『ルーク・フォン・ファブレ』という存在への愛・・・それだけだ。そこに個人に対して向けてる愛なんて存在してない、存在してるのは存在に対しての愛だ。そこにどこに自分があるなんて言える?もしあるなんて言えるならとんだ尻軽以外の何者でもねぇよ、何せ名前が変わった瞬間コロッと態度を変えんだからな。『鮮血のアッシュ』が『ルーク・フォン・ファブレ』って名前になっただけで、矢を向けて敵対してた相手に瞬時に心を入れ替え愛を囁く・・・俺から言わせりゃそこらの路地裏歩いて出会うような金次第で誰にでも抱かれる売女となんら変わらない行動してんだぜ?そう見りゃ『ルーク・フォン・ファブレ』って名前の金出しゃ貪りつく売女にしか見えねーよ、お前」
「っ!!?」
・・・『ルーク』という呼称の使い分け、今までの猪思考姫の行動の不誠実さの提示、そして自分の望まない言葉の否定への釘を刺した女として不名誉な尻軽という称号の烙印・・・
極めて巧妙に、それでいて常識をふんだんに盛り込んだ言葉の罠をぶつけられ、猪思考姫は反論が出来ず体を震わせ言葉を詰まらせる。
「それで、今まで考えた事なかったの?自分が本物だって言った時、あまりにも順応が早過ぎるんじゃないか?・・・ってさぁ、『ルーク様』」
「っ!?」
ここでルークは猪思考姫から対象を移し、煙デコへと問い掛ける。だが声に反応した煙デコの表情は明らかに今呼ばれた事に対してだけでない、愕然としたものがルークに振り向いたそこにあった。







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