焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「つまんねー・・・何一つ成長してねーな、お前」
そんな様子にルークはつまらないといいながらフェミ男スパッツから手を離し、背を見せる・・・その瞬間、溢れ出る笑みを口元に浮かべながら。
「・・・そんなお前に一つ、置き土産をくれてやる。ありがたく取っとけ」
だがその笑みもルークは一瞬で消し、振り返ると同時にフェミ男スパッツに見せる・・・あまりにも早くて目にも留まらぬ動きを見せる、その両手を。
「!うっ、あっ・・・」
‘バタンッ’
するとどもってまともに動けなかったフェミ男スパッツがルークの両手が動きを止めた瞬間、その場にうめき声を残し前のめりに倒れ込む。
「さぁて・・・目が醒めたら、どういう行動取るんだろうな。こいつ・・・」
その姿を見下ろすルークの顔に浮かぶのは嬉々とした感情。



・・・ルークがフェミ男スパッツに施した術、これは修頭胸にナルトが施した暗示のようなものだ。ただ修頭胸と違い、ルークが施した術は罪を自覚させる物ではない。ルークが施したのは全ての感情・思考に対し、大幅にその感情と思考を増幅させるものである。

肉体的に例えて言うなら擦り傷を負ったならまるで骨折でもしたかのように過敏に体が反応するように感じる、そんな代物である。

なら何故そのような代物をフェミ男スパッツに施したかと言えば、それはより一層死ねないのに死ぬと錯覚するほどの苦悩と踏ん切りをくれてやるためだ。

・・・この暗示はナルトの暗示と違い、明確なきっかけでの発動条件はない。強いて言うなら何か物事を考えたり、何らかの感情を抱く時がきっかけだ。

・・・感情と思考という物は非常に密接な関係にある。それこそ感情があってからどうするかと思考を張り巡らせ、逆に思考を張り巡らせた上で浮かぶ感情というものもある。人というのはそうやって自らの内で思考と感情に折り合いをつけながら生きている。だがその思考と感情を一つの事に対し、必要ない物を色々まぜこぜにしながら折り合いをつけようとしたらかえってややこしいものとなる。そうしているのがフェミ男スパッツだ。

・・・復讐、憎悪、平和、我慢、限界、逃亡・・・三年間、頭の中にはめぐりめぐっていたことだろう。どうにかバランスを取りたい、またはどの選択を選ぶか・・・そんな思考と感情の狭間で。

しかしこれからはそういった中途半端なバランスを取ろうとするような、酔ったような感情に浸れる事はない。何故ならルークの暗示はそんなバランスをぶち壊す、精神促成剤だから。



「パターンとして有り得るのは剣に手をかけつつ、死にたくないって気持ちで抜くことまではとどまる、なんてのが1番可能性が高いかな?あー、すっげぇ目に浮かぶ・・・ククッ・・・」
下にはいつくばるフェミ男スパッツを目にしながらルークは自らの予想を口にし、その予想で抑えた笑い声を出す。



・・・そう、この暗示の恐ろしい所はここにある。自らが嫌いだと思う相手に対し、嫌い程度では足りない程の憎悪に過敏に増幅させる思わせる事が出来るのだ。無論逆もしかりだが、そちらは別にフェミ男スパッツには関係ない。

元々殺したいと思ってわざわざ潜入したこのファブレの屋敷、元々ある程度の憎悪は伴われている。その憎悪がルークの暗示によってどれだけのものになるか・・・想像は難しい物がある。が、そんな憎悪に引けを取らない程フェミ男スパッツは自らの命を大切にする傾向がある。

この暗示は憎悪もそうだが、他の感情も同様に増幅させる・・・公爵を前にし、どのような選択をするか?ルークの予想通りになるか?それともまた別の結果になるか?・・・それはまだ、定かではない。

だがファブレを滅ぼせば滅ぼしたでフェミ男スパッツに残った道など死以外ないし、もしファブレを滅ぼさずジッと耐えたとしても絶えず襲い掛かる憎悪と戦いつづけなければならず神経をずっと擦り減らしつつ生きる事になるだろう。

だがどちらにせよそれは自業自得だ、自分で何も選べず人に言い訳を求めてきたその自主性の無さが自らの命運を決めた。これよりは目覚めた瞬間、あまりにも過敏になった精神に苛まれるだろう。地獄はすぐそこにあるのだ、新たなフェミ男スパッツにとっての生き地獄は・・・







17/37ページ
スキ