焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「俺はもう、耐えられない・・・いつまで経ってもこの気持ちをどうやって収めるか、解決の糸口すら思い浮かばないんだ・・・復讐したいという気持ちをどうするのかを・・・」
ヘナヘナとルークの前に立ったと思ったら服を掴み、身を切る程の葛藤を今も抱えていると頭を下げながらフェミ男スパッツは告げてくる。
「復讐がどんな結果を招くか・・・それをお前に身をもって知らされ、俺はこの三年間悩みに悩んだ・・・だがどうしても俺には答えが出て来ない・・・」
「へぇ」
だがその一世一代の告白を受けているルークは感心の薄い声を顔が見えない後頭部に返すばかり。しかしその声色に気付けずフェミ男スパッツは話を続ける。
「だけどルーク様じゃない、お前が今再び現れた。俺はそれが嬉しかった・・・」
「なんで?」
「それは、ルーク。お前に俺をこの家から出してもらいたいからだ・・・!」
思いの丈を伝える言葉を放ちながら頭を上げるフェミ男スパッツの顔に浮かぶのは、痛そうに歪められた懇願という色。
「この家にずっといても俺は復讐を果たすことはないし、出来ない・・・かと言って俺はマルクトに戻れるとも思っていない、お前の言っていた使用人を辞める事が問題に繋がるなら行けるはずがないと・・・けど今お前はこうやって俺の前に現れてくれた!」
瞬間、懇願の色が一気に濃くなり声も強くなる。
「だから頼む、ルーク!あのルーク様にじゃない、これはお前にしか頼めないんだ!もう俺は復讐をしない!だから俺にここから出てもいいって言ってくれ!これ以上ここにいたら気が狂いそうなんだ・・・自分の気持ちと理性の葛藤で・・・」
そして懇願が終わるとまた身を切るような顔でうなだれ、沈黙する。察するに三年間、何度も何度も何度も・・・繰り返したのだろう。復讐のシミュレーションとその後訪れる事態のシミュレーションを。だがその先にあるのは取り返しのつかない戦争の上、ルークという死以外考えられない存在からの脅しがある。望みなど何一つなかったことだろう。
だからこそルークが現れた事は天啓と言えたのだろう、今の現状を打破してくれる人物はルークしかいないのだから。



「ペールはまだ生きてんだろ?ペールと話をしないで勝手にそんなことしていいのか?」
「あっ、あぁ・・・」
だがルークはそんな懇願に対し即答せず会ってないはずのペールの事を口にし、フェミ男スパッツは戸惑いながら顔を上げる。だがフェミ男スパッツは気付いていない、ルークの瞳は優しさなど伴っていないという事を。
「ペールは俺が言えばすぐに頷いてはくれるだろう。話はすぐにつけれる、大丈夫だ」
「じゃあ次に行き先なんか決めてんのか?わかってるとは思うけど、マルクトに貴族として戻ることなんて出来ねぇぞ」
「それは・・・決めてはいないが、働けるならどこでもいい。とにかく俺はファブレから離れたいんだ」
「ふーん・・・まぁとりあえずちょっと離れろ、近い」
「あっ、あぁ・・・」
聞く事を聞きながらもルークは今の近い場にいるフェミ男スパッツに離れろと言い、フェミ男スパッツは慌ててルークから一歩後退して距離を取る。
「・・・お前さぁ、覚えてるか?ペールも交えて俺がお前から元マルクト貴族だなんて過去を聞いた時の事を」
「!?・・・忘れる訳、ない・・・」
その距離になりルークは結論を言うかと思えばかったるそうに昔の事を問い掛け、フェミ男スパッツはその時の事を思い出したのか苦々しそうに頷く。
「あの時言ったよな、俺?お前はその立場に酔ってるって」
「・・・あぁ・・・」



「変わってねぇよ、お前。気が狂いそうとか言ってるけど、偉そうに自分迷ってますなんてアピール出来る時点で今も酔ってるぞ。その立場に」



「!?」
そして辛辣にルークは告げた、お前は一歩たりとも成長していないと。苦悩をしているのではなく、陶酔しているだけなのだと。







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