焔と渦巻く忍法帖 epilogue

人々がそのようにバチカルに集まる理由、それは‘ルーク・フォン・ファブレ’の成人の儀を見るため・・・である。

ただ本来次期王の為の儀式とは言え、それは見せびらかすようなものでもなくひっそり身内でしめやかに執り行われるのが通例である。だがその通例を壊すようキムラスカ側が、大々的に執り行う事を宣言した。

このことに民達は詮索をした、これはどういうことかと・・・そこから多々な推測が重ねられたが、民衆達は概ねこの答えが一番妥当だと考え噂していた。それは‘ルーク・フォン・ファブレの成人の儀をもって、プラネットストームを止めるかどうかの決議を明かすのでは’という物だ。

・・・今まで民達の間で話題に上がることはあっても、国が障気に対してどうするのかを民衆に示すことは不自然な程になかった。例え現在どういう話の進み方になっているのかを説明だけでもしてほしいという声にすら答えを返さない程に。それを考えれば不自然が続いた上に、何かが起こりそうな不自然を重ねた・・・誰かが感づくのも当然と言えた。



・・・そんなふうに人々が期待してバチカルに集まる中で、その喧騒に関わりが深いはずなのに意外な程静かな場所があった。それは、ファブレ邸である。



「「「「・・・」」」」
この成人の儀の主役であるはずの‘ルーク・フォン・ファブレ’を担ぎ上げているはずのファブレ邸。だが屋敷内にいる人間は誰も成人の儀の為に動いている様子などなく、むしろ足音一つ立てないような静けさの中で誰もが静かに各々の仕事に従事している。
・・・これは当の主役である‘ルーク・フォン・ファブレ’と父親であるファブレ公爵が今日という日の為、前日からバチカルの城にて用意をするためそちらに泊まっているからである。様式美という物を大事にする貴族は、着替えの為の移動などあまり貴族らしからぬ様子を見せることを嫌う。故に前日に城に行き姿を見せる時は城から現れて颯爽と、などと言った見栄があってのことだ。このファブレ邸の現状は。
・・・そしてそんな現状だからこそ、この場に一人役に立てず部屋にこもる者がいた。



「・・・今日でア、いやルーク様の成人の儀、か・・・」
自らにあてがわれた使用人用の部屋の自分のベッドに腰掛けつつ、手を握り開きしながら暗く表情を落とすのはフェミ男スパッツ。煙デコの名前を未だ言い違う辺りはルークに対しての未練以外の何物でもない。
「ルーク様、か・・・ルーク様がもう王になるんだから、そう遠くない内にはこの家も離れるんだよな・・・でもそうなったら俺はもう、公爵としか顔を合わせる事もなくなる・・・あんな男と、ずっと・・・」
そして未だ中途半端な復讐心を忘れきれず、燻らせ続けてきたのだろう。公爵への軽蔑と憤怒を多大に含ませた静かな声を室内に響かせる。



「あれ?案外元気そうじゃん」



「っ!?」
するとその室内に明らかにフェミ男スパッツとは違う、ある人物と酷似した声が響く。その声に反射的にビクッとしながら、入口側の右隅の方を向くフェミ男スパッツ。そこには・・・
「ルー・・・ク・・・」
煙デコと同位体という存在で、同じ姿。だがその本質はあまりにも煙デコと違う存在・・・ルーク。
そのルークが腕組みをして不思議そうにしていた姿を目撃しフェミ男スパッツは呆然と呟くが、その瞬間ルークは不愉快そうに眉をしかめる。
「ルークって呼ぶな、その名前はてめぇの御主人様の名前だろうが」
「あ・・・いや・・・違う、んだ・・・」
早速不愉快にされたと言わんばかりのルークの態度に、フェミ男スパッツの態度は明らかにうろたえヨロヨロと立ち上がりながらルークに近付いて来る。









13/37ページ
スキ