焔と渦巻く忍法帖 epilogue

「ダアトから逃げるってのはまぁ言ってみりゃ、罪からの逃げにも繋がるってばよ。まぁ罪を自覚しながらもちゃんと償いをすれば一々幻術も発動はしないんだろうけど・・・あいつじゃ無理無理!だって追い詰められた現状に加えてあんな性格で他の職につくなんてまず出来っこないし、離れたら離れたでもうあいつを拾って雇う人なんていやしないってばよ!」
「でしょうね。もし幻術がなかったならヴァンの妹は自身の事を過大評価し、雇ってくれるところはどこかにはあるとダアトを離れていたでしょうね。そしてどこも雇ってくれないとなったらまたこうでも考えるのでしょう、『自分への扱いは不当だ』などとでもね。ですがそれは罪を償う等といったものではなく、単なる言い訳です。勝手に自身の価値を決めた者のね。だからこその・・・」
「幻術・・・で、そう思わせる暇すら与えず、ダアトに縛り付けてるんだってばよ・・・いい薬だと思わないか、サフィール?」
「えぇ、馬鹿につけるには良薬以外の何物でもありませんよ。最もそれは、劇薬でもありますけどね」
「だろ?」
それはそれは楽しそうに喋るナルトにサフィールは盛大に皮肉を効かせた答えを返し、ナルトはそれを聞き人の悪い笑みを浮かべて返す。



・・・幻術の発動条件は罪を忘れたなら、それはただ我が身可愛さにダアトから逃げだそうとしたときも当てはまる。おそらく幾度となく修頭胸は無駄に高い自尊心から、人の目が厳しいダアトから逃げだそうと考えた事だろう。しかしナルトの使った幻術はそんなに甘くはない。

そう思う度に網膜には修頭胸の独断正義の犠牲者達の哀れとしか言いようがない姿が所構わず焼き付いて来る、例え人前であっても罪を忘れようとした瞬間・・・悪夢が襲い掛かる。

・・・かけられた術を解くには術に応じた実力が必要になる。だがナルトの実力に比肩できる実力者など片手で数えても余りが出る。ましてやオールドラントというナルトにとって生温い以外の何物でもない世界において、術を解ける人間などいようもない。そしてナルトが術を解く気がない以上、死ぬまで半永久的に術の影響下にあることになる。

・・・そんな状況にあるのだ、一々他の事に目を向ける事も出来ないのだろう。何せ考え方を利己的にした瞬間悪夢の幻術空間に一直線だ、周りの目が明らかに自分に好意的ではなくてもそれを嫌で何もかも捨てて逃げたいと考えることすら出来ない・・・これ程の地獄があろうか?

よしんば人の目を気にして罪を償う気持ちを持ちながらもダアトの外に働きに行こうなどと考えても、それは無理に等しいのはナルト達の言う通りだ。修頭胸の元々の性格は望みが高く、能力を過信している。更には元々の愛想の無さに罪を償わなければならない強迫観念に捕らわれより無口になっているのだ、就ける仕事の幅は針の穴を通すような狭い道筋にしかならないだろう。まず客商売に代表される円滑な人付き合いの望まれる仕事は絶望的だ。その点無駄口を叩く必要性がそんなに求められない軍人という職業はまだマシだろう。ただ今更キムラスカもマルクトも修頭胸を軍人として雇う気はないだろうから、神託の盾から抜けなかったのはまだ運がいいと言えた。

だが・・・



「ただ劇薬を投じているんですから、いずれは死ぬでしょうね。その薬の効果で」
「ま、薬って治りゃ基本必要にならないもんだけどあいつの場合死ぬまで治りそうにないから別にいいんじゃね?病気の症状緩和が目的で、完治目指す為の薬じゃない薬もあるくらいだからそんな程度の認識くらいでいいんだってばよ」
「成程、それもそうですね」
それが劇薬である以上、副作用も大体の確率でついてくる。それを指摘するサフィールだったがナルトからの答えに納得して茶を口に含む。



・・・そう。修頭胸がその現状に耐えられるかどうかがあった。







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